研究課題/領域番号 |
21J21376
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
季 思雨 東京大学, 工学系研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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キーワード | ダイレクトゲイン / 木造住宅 / 蓄熱 |
研究実績の概要 |
本年度は実大実験を中心に、異なる敷設位置および開口部付属物が潜熱蓄熱建材(PCM)の蓄熱効果に与える影響を評価することを行い、その結果を以下に示す。 異なる敷設位置のPCM蓄熱効果の評価について、実大実験棟でのPCMを床と天井の窓近辺に敷設した場合、計測期間中(2022年1月ごろ)、晴天日について、暖房をいらずに室温を18℃以上に保つことできた。この時、日射熱取得量の約3割がPCMに蓄熱された。翌日が曇天日時、前日の残蓄量が放熱され、翌々日6時まで18℃以上の室温が保たれた。代表日の敷設位置別日積算吸熱量について、最大値が最小値の約2.3倍もあり、位置別の蓄熱効果に大差があるのがわかった。 開口部付属物の色・開閉状況(全閉、下閉)が室内短波放射分布および空気温度分布ムラにどのような影響を与えるのかについて、実験を用いて検証を行った。付属物の色によって、室内短波・長波放射が占める割合が変わり、特に床に敷設したPCMの吸熱挙動が大きく変わった。開閉状況では、開口部と付属物の間の空気温度および上昇気流の流速に影響があるため、天井に敷設したPCMの優位性が変化した。 また、熱負荷シミュレーションを用い、同気象条件におけるシミュレーションと実験結果の整合性検証を行った。PCM有無の比較から、PCMを敷設したことで、朝方の室温が2.5℃上がった。シミュレーションと実験結果の表面温度比較から、PCM温度の再現にはより精緻な計算を実現するため、室内各表面を一質点のみではなく、より詳細な計算が望ましいことが示された。なお、本研究は日本太陽エネルギー学会若手研究発表会に口頭発表し、奨励賞を受賞した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究の独創的な点は、潜熱蓄熱材(PCM)の蓄熱効果に与える影響が大きいと考える放射熱と対流熱の分布を考慮した上、日射熱利用に最適なPCM特性および敷設位置の設計法を開発することである。この問題を解決することにより、コスト削減、工事簡略化および暖房負荷最小化による冬季のエネルギー自給自足 が実現でき、社会的意義が大きいと考える。 本年度の研究では、実大実験を中心に、異なる敷設位置の対流・放射熱成分だけではなく、開口部付属物を考慮した条件での、潜熱蓄熱建材(PCM)の蓄熱効果に与える影響も評価した。開口部付属物がない場合、床に敷設したPCMでは、放射による吸熱が主体であり、天井に敷設したPCMでは、対流による吸熱が主体である。また、開口部に付属物を付加したことで、床と天井PCMの間の吸熱量バランスを調整できることを証明した。この点では、実際の居住状態にPCMを活用させることの可能性を広げた。 また、蓄熱材を窓側に寄せることは、均一敷設時よりも単位面積蓄熱量を上げることができた。
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今後の研究の推進方策 |
前年度(令和3年度)では、実大木造実験棟による同特性潜熱蓄熱材(PCM)の敷設位置違いおよび開口部付属物を考慮した蓄熱効果・蓄熱状態等による検討を行ったが、実際の木造住宅設計時、より精緻化したPCM敷設法を検討するためでは、シミュレーションに実装しないと期待した効果が得られない。今後では、今までシミュレーションでは検討出来なかった放射・対流の割合等を考慮した計算を汎用プログラムに機能を拡張し、計算方法を確立することを進める。さらに、実験データと照合した上に、確立した計算法の精度確認し、一般住宅で必要となる計算分解能を決める予定である。また、各敷設位置の特徴を把握した上で、異なる特性のPCMを施工するのも効果的と考えられるため、このようなケーススタディも実施する予定である。
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