本研究は、18世紀末から19世紀前半を生きた芸術家ジャン=ジャック・ルクーについて、綿密な資料調査をもとに多面的な分析を行うことが目的である。 以下、項目別に実績の概要を述べる。 (1)フランスでの図版調査:初年度は新型コロナウイルスの影響により中止したが、次年度に現地調査を実現できた。カルナヴァレ博物館、ルーヴル美術館、フランス国立図書館、ジャックマール=アンドレ美術館のそれぞれで、ルクー作品のみならずフューズリ、ジェリコーなど様々な関係作品や資料を確認できた。(2)ルクー作品の分析:初年度においてルクーのデッサン理論を観相学の理論と比較し新たな知見を得た。2022年度にはルクー『市民建築』の建築画に見られる地下空間の表象、あるいは肖像画に見られる両性具有的な主題の分析比較対象として同時代のアブジェクション表象の事例(サド、レチフ、カリカチュア等)を調査した。さらに匂いに関する同時代の状況を明らかにしている歴史学の知見を参考に、嗅覚に言及するルクー作品の分析を進めた。(3)「顔」の表象研究:2022年度以降はルクーを足掛かりとして同時期の「顔」の表象についてさらに分析対象を広げた。具体的には、ラファーターを中心とした18世紀後半の観相学理論および骨相学理論を調査し整理したほか、ジェリコー、フューズリなど上記の理論を絵画の実作へと援用したりその影響が見られる作品における顔面の表象について研究を進めた。(4)必要な資料の購入:上記各作品の分析の方法論を整えるため、西洋美術史および文化史関連の書籍を購入し調査した。他に美術批評・理論関連の書籍を参照した。関連図書に関してオンラインで研究会を開催した。(5)電子資料を研究に用いる体制の整備:タブレット端末やPC周辺機器を購入し環境の整備を完了した。(6)美術館への就職のため、中途で研究費支給を辞退した。
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