研究課題/領域番号 |
21J21499
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
山本 瑞穂 東京大学, 人文社会系研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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キーワード | 近世日本 / 対外政策 / 多国間関係 / 日蘭関係 |
研究実績の概要 |
本年度は、(1)19世紀初頭の多国間関係の変動への幕府の対処、(2)同時期の幕府の政策の前提となる情報収集のあり方の変容についての研究を進めた。方法としては、国内で利用可能な日本語史料・オランダ語史料から、対外問題の発生時に幕府がオランダ商館にどのような役割を求めており、実際にはどのような結果に至ったのかを検討した。 (1)では、オランダ語の通訳の家の文書や、オランダ風説書の分析を通して、19世紀初頭には来航する異国船の属性によってオランダ人の位置付けが変化していたことを明らかにした。具体的には、蘭露関係の悪化について日本側が注意を払う事態が発生していたことを指摘した。 (2)では、幕府周辺で対外問題に関わった学者らの書物や、18-19世紀初期のオランダ商館の日記、およびオランダ語の地理書を用いて、18世紀中期から19世紀初頭にわたり、幕府の情報収集体制の中にオランダ商館が重層的に組み込まれていたことを明らかにした。具体的には、幕府が対ロ問題に際して日露関係史を遡る必要が生じたときに、国内外に分散して蓄積された情報が、学者らの手により段階的に収集され、過去の日露接触の事例が再発見された、という過程について検討した。その結果、①その再発見の過程では、日露関係について第三者であるはずのオランダ商館の関与が不可欠であったことが明らかになった。②従来は幕府がオランダから最新情報を仕入れていたと捉えられることが多かったが、幕府要求した情報には歴史的情報も含まれていたことが明らかになった。③幕府がこの時期を転換点として情報集約体制および対外関係史編纂を志向するようになるという変化の原因が、19世紀初頭の対外問題に見出せるという見通しを提示した。 技術面では、オランダ語・英語・ロシア語の学習を進めたほか、国際学会での研究発表の下準備として英語プレゼンテーションの講習会に参加し研鑽を積んだ。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
新型コロナウイルス感染症の拡大を受けて当初の計画の順番を変更し、九州や国外といった遠方への史料調査の代わりに、国内で利用可能な文献および国内史料・オランダ語史料の収集を進めた。その結果、日本語史料と、近世日本に輸入されたオランダ語の地理書については、国立国会図書館など東京周辺で収集および複写物の取り寄せを行った。また、既に収集した史料の再検討にも力を入れた。一方で、オランダ国立文書館によりオランダ東インド会社日本商館文書のデジタル高精細画像が部分的に公開されたことで、オランダ語史料へのアクセス状況が格段に向上し、同史料群については分析を計画通りに進めることができた。以上の成果を、洋学史学会若手部会や史学会第119回大会近世史部会において報告し、そこで得た知見をもとにさらに調査と検討を進めた。
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今後の研究の推進方策 |
(1)日本とオランダの相互作用について、国内で利用可能な日・蘭の史料を用いて分析する。文献調査により先行研究の整理を進め、国内にある幕政関係の史料を中心に収集・分析する。その成果をまとめ、前年度から継続的に取り組んでいる、江戸幕府の情報網上のオランダ商館の位置づけについての論文を完成させ、査読誌に投稿する。 (2)多国間関係の中でオランダは日本をどのように位置付けていたのかを、オランダ側の史料から検討する。具体的には、実際にオランダに渡航し、長崎のオランダ商館関係者の家文書などを対象に、文書館で史料収集を行う。さらに分析を進め、2022年10月に予定されている研究会でその成果を報告する。 (3)欧米各勢力の領土・植民地の拡大戦略における日本の位置付けを明らかにする。まずは、感染症流行に際して各国の文書館でデジタル公開が進んでいる史料を可能な限り利用する。さらに(2)に関係する英米の史料の開拓を進める。特に、昨年度に予定していたが感染症流行により断念した、アメリカの博物館での史料調査を実行し、18世紀末から19世紀初頭に日本に来航した船に関する史料の分析を行う。
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