年度の前半は、前年度に引き続き日本国内で日本語・オランダ語の資料を収集・分析し、情報を整理した。また、オランダでの調査に向けて、閲覧資料の選定やオランダ語・英語の学習を進めた。 年度後半には調査のためオランダに渡航した。具体的には資料収集、史跡・博物館の見学、オランダ語・英語・フランス語の学習、学会発表、学会聴講、ゼミ参加、現地研究者との意見交換を行った。中でもオランダ国立文書館では、19世紀のロシアの対日政策の進捗状況についてのオランダ側の見解がうかがわれる書簡など、新たな研究材料となる資料を閲覧した。また日本では入手不可能なオランダの書誌学の古本をはじめとして、多数の研究書を購入し、分析に役立てた。受入先のライデン大学では、歴史学科のセミナーで研究発表を行い、アジア史・植民地史・日本史・日本文学の研究者や学生と討論を行ったほか、同学科の博士課程学生向けのゼミに参加するなどして、新たな知見を得、研究手法について学んだ。ドイツ、フランス、ベルギー、イギリスにも赴き、資料収集等を行った。特にイギリス国立文書館では、イギリスが拿捕したオランダ船に関する文書群を中心に、1800年前後のアジア海域における勢力図の把握に繋がる資料を閲覧した。 以上により、19世紀の日本近海における西洋諸勢力の動向と、その背景にある政治状況や法制度について、分析を進めることができた。さらに、そこで得た見解を、日本の沿岸部で実際に起きた異国船来航事件や、国内で伝達された異国船情報、江戸幕府の対外政策と、結びつけて検討した。その結果、18世紀後半から19世紀前半の日蘭関係の意義は、江戸幕府とオランダ東インド会社日本商館との間での貿易や、知識・情報の日本への輸入だけでなく、オランダの情報網が日本近海の情勢変化を規定する条件の一つとなっていたことにもあるという、おおよその結論を導き出した。
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