研究課題/領域番号 |
21J21565
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
板尾 健司 東京大学, 総合文化研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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キーワード | 文化進化論 / 贈与 / 文化人類学 / 複雑系理論 / 統計物理学 / 多階層進化 |
研究実績の概要 |
贈与による社会組織の遷移についての研究を行い、論文を執筆し、いくつかの学会で発表した。本研究ではとりわけ伝統的な社会において、祭礼などに際して行われる贈与が他者にお返しの義務を押し付けることにより、人々の社会関係と地位の変化を駆動するという民族誌事実に注目し、これを表現する数理モデルを構築した。シミュレーションにより、贈与の規模と頻度が増大するにつれて、まず社会内に経済的格差が生まれ、ついで社会的格差が生じ、やがて社会的格差が弱まっていくことが明らかになった。また、このモデルに血縁関係の効果も加味したモデルの分析を通じて、これらの格差に関する変化に伴って、社会組織が血縁関係に基づくバンド、同胞意識により連帯する部族、社会階層文化が進んだ首長制社会、安定的な王室を持つ王国の順に遷移することを示した。また、民族誌データベースの統計解析により、理論の結果を支持した。 これにより、ミクロな対人関係に関する贈与の理論とマクロな社会組織に関する理論という、文化人類学の中で独立に論じられてきた事柄を統合的に理解する枠組みを提案した。また、現実の社会組織の多様性を説明する特徴量の候補として贈与の規模と頻度の変数を提案した。これは文化人類学や考古学の手法により測定可能な量だと考えている。また、上記の研究は、統計物理学や複雑系科学、そして多階層進化モデルに基づく数理的観点により、新たな社会進化のメカニズムを提案し、社会科学に新しい知見をもたらすものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の計画をほぼ完了させた上で、それと関連する新しいテーマに取り組めたため。
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今後の研究の推進方策 |
今年度までで当初の研究計画はほぼ完了し、当初の予定を超える範囲まで研究を進めることができた。最終年度である来年度は、これまでの研究の総括として、二年目までに取り組んできた親族構造の進化、家族形態の進化、贈与による社会構造の遷移に関するモデルを数理的に洗練させて、その本質的なメカニズムを明確にして物理学者向けに示すことと、諸地域例を参照し、モデルの知見が社会科学的に持つ意義を人類学者や経済史家に向けて発信することを目指す。また、これまでに取り組んできた研究の方法を、社会科学研究における新たな方法として整理し、発表したいと考えている。
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