親族構造の進化についてと、贈与による社会組織の遷移についての研究をさらに進めて、新たに論文を執筆した。さらに人口転換についても新たに研究に着手し、論文を執筆した。これらの成果についていくつかの学会で発表した。 親族構造の進化、贈与による社会組織の遷移のそれぞれについて、過去二年間に構築したモデルをミニマルな表現に修正し、それぞれのダイナミクスを生む本質的なメカニズムを明らかにした。そこにおいて、親族構造については、婚姻がもたらす連帯と対立の効果及び、集団サイズと文化的な変異率に依存して、進化するクランの数や構造の特徴に違いが生まれることがわかった。また、贈与については贈与の規模と頻度の積に依存して、社会組織が血縁関係に基づくバンド、同胞意識により連帯する部族、社会階層分化が進んだ首長制社会、安定的な王室を持つ王国の順に遷移することが明らかになった。 人口転換、すなわち近代の出生率低下についての研究も行った。国連データを用いて、195カ国の直近200年間の粗出生率(人口千人あたり出生数)と平均寿命の間の関係を調べた。すると、各国における両指標の変動に関して国や年代を問わず成立する二つの普遍的な関係があることがわかった。これは人口転換における二つの普遍的な相の存在を示唆している。ついで、親による子供への投資について、出産と教育の間にトレードオフがあることに注目して簡単なモデルを構築した。その解析により、二つの相の由来を明らかにした。 これらの成果は過去三年間で行った研究を総括するものであり、上記の研究は、統計物理学や複雑系科学、そして多階層進化モデルに基づく数理的観点により、新たな社会進化のメカニズムを提案し、社会科学に対して新しい歴史観を提案すると同時に、数理的な研究の分野についても新しい現象のクラスとそれを生むメカニズムを示すものである。
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