本研究は三次元電子受容分子ぺルフルオロキュバンの合成とその物性調査を目的とし、フッ素ガスを用いた液相直接フッ素化法によって合成及び物性の探求を目的としている。過年度までに、本研究の中心的な目的であった、全フッ素化キュバンの合成及び電子受容能の解明に成功した。本年度においては、この特異な性質及び特徴的な多フッ素化キュバン骨格を活かした基礎学理の開拓のために、多フッ素化キュバンへの置換基導入と、官能基化された多フッ素化キュバンの性質について調査した。 官能基化された多フッ素化キュバンとして、2個の高周期ハロゲン元素(塩素・臭素・ヨウ素)を導入した多フッ素化キュバン:ヘキサフルオロジハロキュバンを合成ターゲットとした。求電子剤として、各種アリールスルホニルハライドとの反応によって、3種類のヘキサフルオロジハロキュバンの合成・単離に成功しその構造を各種NMR及び単結晶X線構造解析によって明らかにした。 非常に興味深いことに、ヘキサフルオロジハロキュバンに含まれる炭素ハロゲン結合は平均的な炭素ハロゲン結合長よりも著しく短縮していた。ケンブリッジ結晶構造データベースを用いた解析によって、ヘキサフルオロジハロキュバンの炭素ハロゲン結合は既報の化合物群と比較しても上位1%に属する著しく短縮した結合長を有しており、ヨウ化物についてはこれまでに報告された化合物群の中で最も短縮した炭素ハロゲン結合を有していることが明らかとなった。 加えて、これらの短縮に寄与する構造的な要因を密度氾関数法を用いて議論した。
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