研究課題/領域番号 |
21J21826
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
三上 航平 東京大学, 新領域創成科学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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キーワード | デジタルツイン / ヘルスモニタリング / 逆有限要素法 / 船体構造 / 健全性評価 |
研究実績の概要 |
本研究では,船体の構造健全性をモニタリングするシステムとして船体構造デジタルツインの実現を目指す.そのための要素技術として,変位や応力などの船体の状態を船体に設置されたセンサによって計測されるひずみデータから推定する逆解析手法である逆有限要素法の船体構造への有効性の検証やシステム開発・検証を実施する. 2021年度は,(A)シミュレーションにおける逆有限要素法の検証,(B)デジタルツインシステムプラットフォームi-SASの開発,(C)水槽試験におけるデジタルツインシステムの検証を実施した. (A)では,有限要素法を用いたシミュレーションによって波浪中において船体に生じる応答(変位・ひずみ・応力)を算出し,それを入力とする逆有限要素法によって推定された変位と比較することで船体構造に対する逆有限要素法の検証を実施した.その結果,船体の縦・水平曲げやねじりといった主要モードを再現可能であることが示された.(B)ではセンサによるモニタリングや逆有限要素法などのシミュレーション手法が統合して動作するデジタルツインシステムを効率的に構築するためのシステムプラットフォームとしてi-SASを開発した.(C)では開発したi-SASを用いて弾性模型船を対象とするデジタルツインシステムを構築し,水槽試験においてシステムの動作検証を実施した.検証の結果,開発したデジタルツインシステムによってセンサによるひずみの計測,逆有限要素法によるひずみを用いた状態推定,計測・解析結果の可視化といったデジタルツインシステムに必要な動作をリアルタイムに実行し,GUI(Graphical User Interface)によって情報をフィードバック可能であることが確認された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
2021年度では,当初(1)逆有限要素法による変位・応力同定手法の精度検証,(2)ひずみ場の補間手法の開発,(3)デジタルツインシステムを実装するためのプラットフォームの開発を計画していた.(1)については有限要素法によるシミュレーションを用いた検証によって船体構造に対する逆有限要素法の適用性が示された.(2)については,従来の空間を均質と仮定する補間手法の問題点を克服するグラフ構造を用いたひずみ補間手法を開発し,補間したひずみ場を逆有限要素法の入力として用いることで変位推定精度が向上することが明らかになった.さらに,精度の良いひずみ補間に向けて問題点が明確になった.また(3)についてはデジタルツインシステムを構築するためのシステムプラットフォームi-SASを開発し,さらにi-SASを用いて構築された弾性模型船を対象とするデジタルツインシステムの検証を水槽試験において実施することができた.検証の結果,構築したデジタルツインシステムによってリアルタイムに弾性模型船の状態を推定可能であることが実証された. 以上より,本研究は当初の計画以上に進展していると言える.
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今後の研究の推進方策 |
2021年度に得られた結果を踏まえ,(1)実船を対象とするデジタルツインシステムの構築・検証,(2)実験データを用いた逆有限要素法の精度検証,(3)各種センサによる計測データを用いた応答推定精度の向上を目指したデータ同化手法の研究について取り組む計画としている. (1)では,開発したi-SASを用いて実船の船体構造のデジタルツインを実現するシステムを構築し,実船に搭載してその動作性を検証するとともに必要に応じてi-SASの追加開発を実施する.(2)では,2021年度に実施した弾性模型船を用いた水槽試験において計測されたひずみデータを用いて逆有限要素法によって応答を推定し,その推定精度を検証する.また模型船に設置しているひずみセンサのうち,一部の計測データによる応答推定を実施し,逆有限要素法による応答推定により適したセンサ配置およびその決定方法を明らかにする.さらに(3)では,現在はひずみデータのみを用いて応答を推定しているが,変位や加速度などの他のセンサによる計測情報と組み合わせることで精度を向上させる方法を探る.これらの研究によって得られた成果は,学会発表や論文を通じて社会に還元する予定である.
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備考 |
開発したデジタルツインプラットフォームi-SASによって構築された模型船のデジタルツインシステムの検証を,2021年11月に(国研)海上技術安全研究所において実施し,デジタルツインによるリアルタイム状態モニタリングの様子を一般公開した.
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