研究実績の概要 |
本研究では、熱化学電池の熱起電力 (ゼーベック係数, Se) の向上を目指した、酸化還元種と周辺分子との分子間相互作用に関する新しい手法を開発した。Seは酸化還元に伴うエントロピー変化 (ΔSrc) に比例するため、ΔSrcを増大させる系設計が肝要である。私は、酸化還元種クロラニル (CA) に対して水素結合性溶媒を設計し、溶媒和構造とSeとの関係を明らかにしながら、Seの向上を達成した。 CA-とCA2-を酸化還元対としアセトニトリルに溶解させた熱化学電池のSeは、水素結合供与性溶媒エタノール (EtOH) の添加により、-1.3から-2.6 mV/Kに増大した。量子化学計算 (山形大の安東先生との共同研究) および分光学測定によってCA種の溶媒和構造を調べたところ、EtOHはCA-に対しては水素結合を形成しにくい一方で、CA2-に対しては酸素原子近傍に水素結合を形成することが示唆された。電気化学測定により、EtOH濃度の増加によって、CA2-に対するEtOH溶媒和数が増加することが示された。さらに、各CA種に対するEtOHの会合エントロピーから得られたΔSrcは、実測のΔSrcと一致した。これらから、CA-への酸化によってCA2-へのEtOH溶媒和が解離することで、ΔSrcが増大すると示された。 この手法は、様々な水素結合供与体 (H-donor) に応用できる。今年度はH-donorの溶解―沈殿平衡を駆使し、Seの向上を達成した。CAの酸化還元電位は、H-donorの濃度増加によって正にシフトする。低温で沈殿し高温で溶解する1,10-デカンジオールを用いた熱化学電池のSeは、40 ℃以上で+2.7から+6.0 mV/Kまで増大した。溶解度の温度依存性から求めた、クロラニル電位変化の計算値は、実測値と一致し、ジオールの温度応答性の設計によりSeが向上することが示された。
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