研究課題/領域番号 |
21J21917
|
配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
長田 将 東京大学, 工学系研究科, 特別研究員(DC1)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-28 – 2024-03-31
|
キーワード | Phase Locked Loop / Harmonic-Mixer / Fractional-N PLL / IC Design |
研究実績の概要 |
周波数シンセサイザとして様々な応用で必須になる位相同期回路 (Phase-Locked-Loop: PLL)、特にその中でも容易に低位相雑音を達成できる高調波ミキサに基づいたフラクショナル型位相同期回路に取り組んだ。当初の予定では既存の構造をミリ波帯に拡張することを目標としていたが、考察を進める中で性能向上を可能とする新規な構造やこれらを上手く活かした応用が挙がったためミリ波帯にこだわらずに研究を進め、特に今年度はリング発振器に基づくPLLの研究に取り組んだ。従来のPLLで用いられるのはインダクタを用いたLC型発振器がほとんどであるが、インダクタの大きな面積によるコストの上昇や磁気的カップリングによる性能劣化などの課題がある。一方リング型発振器はこれらの問題の多くを解決できる一方でLC型発振器と比べてノイズが大きいため多くの場合用いることは容易でない。そこで本研究では高調波ミキサ型の構造を補助PLLを用いたフィルタリング効果と組み合わせることで発振器のノイズを非常に効果的に抑えられる構造を実現し、リング発振器を用いても十分低いノイズを達成できることを示した。こちらの成果は国際学会にて発表済みである。 また、高調波ミキサ型のPLLはここ数年注目され始めた構造であるため未だに設計手法や気をつけるべき点がはっきりしておらず場当たり的な設計が行われることが多い。よって高調波ミキサ型のPLLに関する解析とそれに基づいた最適設計手法を提案することを当初より目標としてきたが、こちらを今年度論文としてまとめた。高調波ミキサはサンプル・ホールド回路に基づくため性能劣化につながりうるトーンが発生してしまう場合があり、これらを抑えるために適切なフィルタを設計する必要がある。論文ではこれらのトーンが発生するメカニズムを解析により説明付け、それに基づいてフィルタの設計指針とケーススタディを示した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在の進捗状況は当初研究課題にて想定していた方向とは異なるが順調に進展している。本研究課題の一番大きなテーマとして高調波ミキサを活用した高性能な周波数シンセサイザを挙げているが、こちらに関する研究は非常に順調に進んでおり、既に新規構造の提案、実証、そして成果の対外発表を行っている。ただし当初はこれをミリ波帯の応用分野に用いるのを考えていたのに対し、本研究で提案した技術ははミリ波帯で用いることも可能なものの特にミリ波帯にフォーカス・実際の応用技術の実証などは行っていない。この理由として従来の技術をミリ波帯に適用するだけではあまり研究として新規性やインパクトがない (実際高調波ミキサに基づいたミリ波帯のPLLは本研究課題開始後他グループによって既に発表済み)、高調波ミキサ型のシンセサイザはミリ波以外の分野でも非常に有用であり、提案コンセプトを示す上で実装が大変なミリ波帯を選ぶのは失敗のリスクなども考えるとコストに見合わない、などが挙げられる。すなわちミリ波帯の応用技術は非常に有用であるものの集積回路の研究テーマとしては良い成果を上げるのが難しいと感じたため、現在はミリ波帯に拘らずに研究を進めている。 またもう一つの研究課題として高調波ミキサを用いたPLLの一般的な解析および設計指針を示すことを目標としていたが、こちらは順調に進み既に論文誌での出版にまで至っており非常に順調に進んでいると言える。 以上のことから本研究課題の進捗は当初とやや異なる部分があるもののおおむね順調に進んでおり、良い成果もあげられていると考える。
|
今後の研究の推進方策 |
今後は今年度発表したリング発振器の基づくPLLをより詳細に解析・測定し、学会で発表した内容を拡張して論文に投稿する予定である。またこれに加えて高調波ミキサを活用したPLLの構造を新たに提案中であり、こちらの回路設計や実測を今後行う予定である。これらが上手く進めばミリ波帯はもちろん、その他の無線・有線通信やレーダーなどの応用にて非常に有用な技術として確立されると考えられる。
|