研究課題/領域番号 |
21J22046
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
鹿島 哲彦 東京大学, 薬学系研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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キーワード | Hebb則 / 同期発火 / 可塑性 / 方位選択性 |
研究実績の概要 |
脳内の情報伝達を担う神経細胞間の結合は正常な脳機能に重要である。1949年に提唱された「同期発火した神経細胞同士は結合する」というHebb則は神経回路研究において重要な仮説であるが、いまだに直接的な証明を行った知見は存在しない。 その原因として、慢性的に同期発火を誘導することが困難であること、結合を確認する手法の技術的障壁が大きいことが挙げられる。申請者は新たな同期発火誘導手法の確立・複数細胞同時パッチクランプ技術の習得に加え、同期的でないランダムな発火を誘導する実験系を見出し、この問題を解決した。これにより同期的な発火こそが結合に重要であるというHebb則の直接的な証明に取り組んできた。 本研究ではマウス感覚皮質において生後9-13日に毎日1時間の同期発火またはランダム発火誘導を行った個体において、合計3000ペア以上もの細胞間の記録を行い、3週齢で同期発火細胞間の結合確率のみ有意に増加していることを見出した。さらに、結合の電気生理学的特性には有意な差が見られなかったことから、生体内で生理的機能を担う可能性が示唆された。加えて、記録細胞の形態を可視化することで、同期発火誘導により一部のスパインサイズの増大が認められ、結合の増加をミクロスケールでも裏付けることが出来た。 次に、方位選択性について、同じ機能を果たす神経細胞の結合確率が高いという過去の知見に着想を得て、同期発火・ランダム発火神経細胞について2光子カルシウムイメージングを用いて方位選択性の類似度を比較した。すると、細胞集団レベルでの表象に差は見られなかったものの、同期発火により方位選択性が上昇することを見出した。 本研究は70年以上未証明であったHebb則に直接的に切り込み、さらに、形成された結合が果たす生理的な機能に言及した点で意義深い。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2光子カルシウムイメージングによる機能の検討は3年目に行う予定であったが、手技を効率よく習得できたため、現時点でデータの取得は概ね完了しており、解析を残すのみとなっている。そこで、従来のような解析に加えてクラスタリングや機械学習を用いた解析を取り入れることも視野に入れている。 また、同期発火が単純に活動の上昇を反映している可能性を考慮し、活動は上昇する一方で同期の度合が低下する刺激系を確立した。この条件についてもこれまでと同様に神経回路の検討、2光子カルシウムイメージングの実施が完了している点で、おおむね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
結合している細胞は同様の機能を担うことが示唆されており、特に視覚皮質においては個体が見ている線分の向きに応答して活動する細胞が存在するが、結合している細胞は同じ向きの線分に応答することが報告されてきた。申請者は人為的に神経細胞間に結合を形成する手法を確立することに成功したため、この手法を用いて神経細胞間の結合とその機能の因果関係を示すことに挑戦している。具体的には、同期発火誘導によって結合形成を促した個体、またはランダム発火によって結合は変化していない個体の視覚皮質にアデノ随伴ウイルスを用いてカルシウムセンサーであるGCaMP6sを発現させ、刺激細胞の応答する線分の向きを解析する。同期発火細胞でのみ応答する線分の向きが類似すると仮定して解析を行う予定である。 また、結合形成を担う受容体についても探索を進める予定である。シナプス可塑性にはAMPA受容体やNMDA受容体が関与することが一般的に知られており、今回同期発火誘導によって増加したシナプス結合が通常のシナプス可塑性と同様のメカニズムによるものか検証する必要がある。そこでまずはNMDA受容体のアンタゴニストであるMK-801を同期発火誘導前に腹腔内投与し、結合の増加を阻害できるか検証する予定である。
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