研究課題/領域番号 |
21J22064
|
配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
常冨 純矢 東京大学, 薬学系研究科, 特別研究員(DC1)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-28 – 2024-03-31
|
キーワード | ホウ素中性子捕捉療法 / がん / バイオマーカー / ケミカルバイオロジー / 創薬 |
研究実績の概要 |
前年度までに、食道がん部位などで活性亢進が見られるジペプチジルペプチダーゼ4(DPP-4)を標的としたキノンメチド型BNCTプローブEP-4OCB-FMAの開発に成功している。本プローブを生細胞に適用すると、DPP-4高発現細胞選択的に細胞内に滞留し、十分な細胞内ホウ素濃度を実現可能であることが明らかになっていた。 本年度はこのBNCTプローブを用いて、京都大学研究用原子炉(KUR)で中性子照射を行い、培養細胞ならびに担癌モデルマウスでのBNCT治療効果を評価した。 まず培養細胞での実験において、培養細胞にEP-4OCB-FMAを曝露後、中性子照射を行い、細胞生存率をコロニーアッセイによって評価した。その結果、DPP-4 positiveであるH226細胞、Caco-2細胞では強い細胞増殖阻害が確認され、この効果はDPP-4阻害剤の共投与によって抑制された。さらにCaco-2細胞においては、既存BNCT薬剤であるBPAよりも優れた細胞増殖阻害能が見られた。 次に、H226皮下腫瘍モデルマウスを作成し、in vivoでの評価を行った。まず、EP-4OCB-FMAを腫瘍内投与し、即発ガンマ線分析(PGA)により腫瘍内ホウ素濃度を定量したところ、投与後24時間においても高濃度のホウ素が腫瘍内に滞留していることが示唆された。さらに薬剤を腫瘍内投与してからBNCTを行い、その後約1か月間にわたり腫瘍サイズを計測したところ、薬剤・DPP-4酵素活性・中性子線照射依存的な腫瘍増大抑制が確認された。また、マウスに顕著な体重減少は見られなかったことから、副作用も少ないことが示唆された。 以上より、EP-4OCB-FMAが腫瘍細胞選択的な酵素活性をターゲットとし、新たなケミストリーに基づいた有用なBNCT薬剤であることが示唆された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、BNCT薬剤候補化合物であるEP-4OCB-FMAを用いて実際にBNCTを行った。培養細胞、担癌モデルマウスのいずれの系においても、薬剤・DPP-4酵素活性・中性子線照射依存的な治療効果が確認されており、EP-4OCB-FMAが当初の設計通り機能する有用なBNCT薬剤である可能性を示唆する結果を得ている。いずれの実験においても、未だ天然ホウ素によって合成した薬剤を用いているが、今後ホウ素-10でenrichした薬剤を用いれば更なる治療効果の向上が期待される。マウス実験においては、現状、腫瘍内投与という投与形態に留まっている。今後、薬物動態の制御を行い、全身投与を目指していく予定であるが、本年度に得られた知見は今後の研究遂行を大いに支持するものと期待される。 また、本薬剤とは別に、酵素反応依存的にアルキンタグをラベル化し、クリック化学を活用することでホウ素クラスターや蛍光団などを結合できる新たなプローブ群の開発にも成功している。本プローブは、EP-4OCB-FMAの細胞内局在などを窺い知るための有用なツールとなると考えられ、今後のBNCT薬剤開発を推し進めると期待される。 以上の結果は概ね当初の目標通りの成果であったため、上記の評価とした。
|
今後の研究の推進方策 |
今後は、EP-4OCB-FMAを軸に更なる評価・最適化を進めていく。現状のプローブの問題点として、薬物動態の詳細な評価が行えておらず、最適化できていない点が挙げられる。具体的には、前年度に行った担癌モデルマウスによるBNCT実験では、抗腫瘍効果が確認されたものの、EP-4OCB-FMAの投与形態は腫瘍内投与(i.t.)に留まっている。臨床を見据えれば、局所投与ではなく静脈内投与(i.v.)や腹腔内投与(i.p.)といった全身投与が望ましく、これにより腫瘍内の均一な薬剤分布とそれに続く治療効果の向上に繋がる可能性もある。そこでまずは、EP-4OCB-FMAの薬物動態について詳細な評価を行う。具体的には、本プローブの血中滞留性・代謝経路・腫瘍内分布などの評価を行い、さらには血中アルブミンとの親和性といった体内動態に影響する物性因子について評価を行う。そしてその結果に応じて、プローブの動態を改善するような分子構造修飾を適宜行う。さらには必要に応じてリポソームなどのDDS技術を活用し、腫瘍へより効率的にホウ素を集積させる手法を模索する。また、こうした薬物動態の最適化と同時に、他のがんバイオマーカー酵素を標的としたプローブへの応用やプローブの毒性軽減なども前年度に引き続き目指して実験を行う。以上の改善を施した後、最終的には再度BNCTを行い、より良好な治療成績を得ることを目指す。
|