抗結核薬ベダキリンの全合成研究を行った。結核は現在でも世界的に深刻な感染症であり、特に多剤耐性結核菌の存在が問題となっている。ベダキリンは多剤耐性結核の治療に用いられる抗結核薬であり、その立体配置によって活性が異なるため、目的の立体異性体の選択的合成は重要である。しかしながら本分子は大きな立体障害を持つ置換基を含んだ連続四置換-三級不斉炭素中心を有するため、その立体選択的合成は難度が高く、効率的な合成ルートの開発が望まれる。こうした背景から、申請者はケトンの立体選択的プロパルギル化反応をカギとすることで、合成上の課題となる連続四置換-三級不斉炭素中心を高立体選択性にて一挙に構築可能なベダキリンの新たな合成ルートを考案し、研究に取り組んできた。 カギとなるケトンの立体選択的プロパルギル化反応による、連続四置換-三級不斉炭素中心をもつホモプロパルギルアルコール中間体の合成に関して、アレニル亜鉛試薬を用いてプロパルギル化反応を行うことによって反応が進行することが分かった。この際、反応温度および反応時間を調整することで目的の立体配置を持つホモプロパルギルアルコールが主生成物として得られることを見出した。さらに、このホモプロパルギルアルコール中間体から、ベダキリンの持つキノリン環の構造を構築することに成功し、最終的に先行研究において報告されている中間体へと変換することでベダキリンの形式合成を達成した。 本研究ではケトンの立体選択的プロパルギル化反応をカギとして、薬剤耐性結核菌の治療に用いられる抗結核薬ベダキリンの新たな合成法を開発した。この研究成果は抗結核薬の研究の発展に寄与し得るものと期待される。
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