本研究は、日本先史時代の縄文人による狩猟や原材料獲得にともなった季節的な移動履歴を復元するうえで、骨に記録された長期間の時間情報を用いて、先史時代人の定住化の過程について議論することを目的とする。移動履歴の復元には歯エナメル質を用いた幼少期の復元があるが、実際に移動する大人の情報ならばより詳細な移動履歴の復元が可能となる。そこで、本研究は長管骨に含まれる「一次骨」と呼ばれる骨組織に着目し、その形成時期を明らかにするため、現代人の大腿骨および脛骨を用いて高空間解像度な放射性炭素測定を実施してきた。 2023年度は、開発した、生体組織の高空間解像度な放射性炭素測定システム(レーザーアブレーションによる放射性炭素前処理装置)の応用研究を蓄積した。具体的には、年代測定の評価がしやすい天然試料の樹木年輪を用いてシステムの実用性を検証した。1年輪ずつ複数の試料を迅速に分析するため、試料は前処理をせず、生木のまま直接レーザーアブレーションを実施した。まず、アラスカ産のマツ科の年輪試料を用いて、1950年代の核実験の影響により、大気中の放射性炭素濃度が増加する現象(ボムピーク)の検出に成功した。次に屋久杉の単年分析を実施し、AD774-775年の放射性炭素濃度の急増加イベントの検出に成功した。ただし、実際に未知のイベントの検出に応用するには、さらなる測定精度の向上が求められることもわかった。これらの成果は国際専門誌にて公表した。
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