研究課題/領域番号 |
21J22563
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
五三 裕太 東京大学, 工学系研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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キーワード | 河川文化アプローチ / かわまちづくり / 参加型プロセス / 環境認識 / アンケート / 河道形態 / 土砂輸送プロセス / 国際比較 |
研究実績の概要 |
昨年度に整理した水系基盤システムデザインの分析のフレームワークを用い、愛媛県大洲市および愛知県岡崎市における河川空間整備・利活用の事業プロセスの実証的分析をおこなった。愛媛県大洲市に関しては、肱川かわまちづくり計画の協議会・ワークショップにおける、各計画内容の検討経緯と各主体の意見との関係性を明らかにした。また愛知県岡崎市に関しては、乙川リバーフロント地区整備計画に端を発した10年間の乙川の河川空間利活用の経緯を整理し、河川空間再編を通じた地域主体の認識変化の特徴を明らかにした。以上から、多主体参加型プロセスを通じた河川管理と地域再生の取り組みの連携に向けて、地域住民と河川環境との関係性を動態的に捉え、空間整備の取り組みを実施する効果的なタイミングおよび場所を検討することの重要性を指摘した。 次に、地域住民と河川の動態的な関係性を理解する方法論を明らかにするため、愛知県岡崎市乙川を対象に、河川の環境認識の世代変化に関する調査を実施した。具体的には、岡崎市民へのアンケート調査を実施し、河川のイメージに関する332通の回答を得た。回答者を年代や河川に関わる生業・活動の経験が異なるいくつかのグループに整理し、各グループの空間認識のパターンを比較した。その結果、河川改修実施後に生まれた世代ではその前と比較し「自分に関係ある」と感じる河川が居住地から遠くなっている傾向があること、さらに近年の河川環境に対する課題意識の醸成が「自分に関係ある」と感じる範囲を流域全体へと広げている傾向を指摘した。 これらの地域住民の認識には、河道形態に規定される河川利用・洪水氾濫の特徴が影響を与えていると考えられる。そこで現在、静岡県伊豆半島の狩野川を対象に河道形態の変化に関する分析を実施している。またヨーロッパでの研究活動により、河川利用・洪水氾濫の特徴が大きく異なる地域での比較分析をすすめている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初目的である、地域特性の継承に向けた水系基盤システムデザインの方法論構築に向けて、地域住民の河川環境への認識の特徴が計画検討のプロセスに与える影響を指摘し、その特徴に応じた施策運用の重要性を指摘することができた。 さらに地域住民の認識の特徴が、歴史的にどのように変化してきたのかについては、愛知県岡崎市の地域住民主体の河川利活用団体との協力関係を構築することで、資料収集からアンケート実施に至るフィールドでの研究活動を実施することができている。その結果、地域住民の環境認識の世代間での変化の傾向を明らかにすることができた。 また、これらの環境認識の特徴に影響をおよぼすと考えられる河道形態の特性についても、静岡県の狩野川における国の測量データの解析および数値解析によって、放水路建設後の河道形態の変化の傾向を明らかにすることができている。 来年度、上記の成果について議論を重ね、さらに河道特性といった河川の自然的特徴と、地域住民の認識といった地域の社会的特徴の関係性に関する分析を進めることで、研究計画の完遂を見込んでいる。以上から、研究計画は概ね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
2023年度は、ここまでの分析成果に関する確度の向上および学会等でのディスカッションをおこなうことに加え、河道特性といった河川の自然的特徴と、地域住民の認識といった地域の社会的特徴の関係性の解明に向けた研究を推進する。 既に河川の自然的特徴については、土砂の堆積・侵食の傾向によって、河道形態の変化の特性が大きく異なることを明らかにしている。また地域住民の環境認識の特徴としては、これまでのアンケート調査の成果をもとに、この60年間での河川に対する認識の変化の傾向と、認識の継続がみられるホットスポットの存在を仮説的に示している。そこで今後は、河道周辺低地部の地域形成過程を土砂の堆積・侵食の特徴に着目して分析することで、現在の地域住民の環境認識におけるホットスポットとの関連性について考察を深めることを予定している。 さらに、ヨーロッパの各種事例に関する比較分析もおこなうことで、日本における河川管理と地域再生のスケール横断的な連携を通じた水系基盤システムデザインの実践的方法論と潜在的課題に関して提案をおこなう。
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