2023年度は、ヨーロッパでの在外研究をおこないながら、昨年度までの研究成果に関する精度向上・発表および日本国内の80都市および西ヨーロッパ地域の30都市を対象とした歴史的な中心市街地立地特性の分析をおこない、それらを取りまとめて博士論文の執筆をおこなった。 昨年度研究成果については、愛知県岡崎市および静岡県伊豆半島で実施してきた調査の結果について、ドイツ・オランダの地理学(ランドスケープ科学)・河川学の専門家との個別議論を通じて考察を深め、それぞれ国際学会にて発表をおこなった。 日本および西ヨーロッパ地域の都市を対象とした分析は、地図資料の収集および在外研究を通じた現地調査によっておこなった。歴史的な中心市街地の立地に着目をしたのは、昨年度の愛知県岡崎市における調査の結果、中心市街地と河川との地理的関係性が人間集団の川に対する意識を規定する要因であるとわかったためである。研究の結果として、歴史的な中心市街地立地のパターンを河川との関係性によって3つにパターン化した。特に西ヨーロッパ地域では、各パターンで水辺再生の取り組みの内容に差がみられた。また日本の都市に着目すると、川の地形条件と市街地立地パターンとの対応関係が確認できた。 以上の成果は、川に対する人間集団の意識に関するミクロな特徴と、治水や利水のあり方に大きく関わるマクロな地理的骨格との関係性を示すものであり、両者を包括するスケール横断的な水系基盤システムデザインの実践において参考とすべき枠組みを提供するものと考えられる。
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