本研究はインド太平洋地域の分布北限域に位置する日本のマングローブ林を対象に、海洋との相互作用により駆動される炭素循環、特に溶存無機炭素(DIC)としての海洋への輸送と水域から大気に排出されるCO2フラックスに着目して研究を実施した。 2023年度は、干潮時には干潟により海域と分断される特徴を持つ西表島由布島対岸のマングローブ林を対象に、マングローブ林から海洋へのDICの流出特性を明らかにするための調査を実施した。マングローブ林前面の水中CO2分圧は大潮時には潮汐に対応し半日周期での変動を示したが、大潮から小潮に進むにつれて徐々に潮汐の影響が弱まり、小潮時には昼夜に対応した変動を示した。また、水域から大気へのCO2フラックスは世界のマングローブ水域の平均値と比較し1/4程度であった。これは小潮時には干潟での光合成により水中CO2分圧の増加が抑制されたと考えられ、マングローブ前面の干潟はDICの海洋への貯留を促進する緩衝地帯としての役割を持つことが示唆された。また、マングローブ林の形成立地と水域へTA、DIC、CO2の流出特性の関係を明らかにするために、西表島石垣島の8つのマングローブ水域において半日間の調査を実施したところ、石垣島のマングローブの林において土壌からの炭酸物質の溶出が顕著に多いことが確認された。 2021年度と2022年度の石垣島吹通川マングローブ林での調査結果と2023年度の結果から日本のマングローブ林から海洋への全アルカリ度(TA)とDICの輸送量の平均値は180±107 mmol/m2/日、203±102 mmol/m2/日であり、DIC/TA輸送量比は1.23±0.31であった。これは日本のマングローブ林は世界的に見ても海洋へのTA,DICの輸送量が多く,輸送されたDIC多くが海洋に貯留される可能性を示唆する結果となった。
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