研究課題
本研究の目的は、同性ラットの社会認知において同居・非同居(親近性の高低)カテゴリーが存在するか、そのような認知が発達・進化の過程でどのように形成され、変容するかを明らかにすることである。本年度は、ラットが同居・非同居という情報を効率的に処理するためのカテゴリーを持つかを検討するため、オペラント条件づけの予備実験を実施した。まず、T字迷路を用いて、同居・非同居個体の生体の組み合わせを弁別させる訓練を行った。弁別獲得後に、新奇な同居・非同居個体の組み合わせを呈示したところ、訓練で獲得した反応が新奇刺激にも転移することが示唆された。更に詳細な検討が必要ではあるが、ラットが同居・非同居個体をカテゴリー的に認知している可能性が示されたと考えられる。この結果を第40回日本動物行動学会大会で発表した。また、上記のオペラント条件づけをより効率よく行うために、コンピュータ制御のオペラント箱を用いた実験系を組み、同様の訓練が可能であることを確かめた。さらに、同居・非同居認知に関する基礎的知見を収集するために、自由行動下のラット群の行動追跡および行動特性テストを行った。はじめに、同居・非同居個体に対する社会行動が個体の性格特性とどのように関係するのかを探索的に分析した。その結果、個体の新奇物探索傾向が非同居個体に対する接近傾向などと関連する可能性が示され、この成果を日本人間行動進化学会第14回大会で共同発表した。
2: おおむね順調に進展している
まず、ラットが同居・非同居という情報を効率的に処理するためのカテゴリーを持つかを検討するため、T字迷路を用いたオペラント条件づけの予備実験を実施した。ラットが同居・非同居個体をカテゴリー的に認知している可能性を示す予備的な結果が得られ、この成果を国内学会で発表した。しかし、訓練に予定よりも時間を要したため、この成果の国際学会発表、論文投稿などはできなかった。これを踏まえて、訓練をより効率よく行うために、オペラント箱を用いて同様の訓練が可能な実験系を組み、予備実験まで終了した。また、同居・非同居認知に関する基礎的知見を収集するために、ラット集団の行動追跡および様々な行動特性テストを行った。このデータを探索的に分析し、その成果を国内学会で発表することができた。
今後は昨年度に引き続き、ラットが同居・非同居という情報を効率的に処理するためのカテゴリーを持つかを検討するための行動実験を実施し、より多くのデータを取得する。今年度はオペラント箱を用いて、同居・非同居個体の弁別訓練および新奇刺激を用いた転移テストを効率よく進めることを目指す。さらに、同居・非同居カテゴリーの認識にどのような脳領域が関係するのかを検討するために、これらの実験中に活動した脳部位を免疫染色を用いて特定する。また、同居・非同居認知に関する基礎的知見を収集するために、昨年度取得した自由行動下のラット群の行動追跡および行動特性テスト結果の分析を引き続き行う。具体的には、群内の社会的相互作用の経時変化を分析し、同居・非同居という認識が形成されるまでの時間を推定すること、同居・非同居個体に対する社会行動(接近・回避など)が、どのような行動特性(新奇物探索傾向や不安傾向など)と関連するかを調べることを目標とする。
すべて 2021
すべて 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 1件)
Genes, Brain and Behavior
巻: 21 ページ: e12780
10.1111/gbb.12780