研究課題/領域番号 |
21J23626
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
渡邉 史朗 東京大学, 工学系研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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キーワード | 水晶振動式力センサ / オルガノイド / ヤング率推定 / 大変形モデル / 硬さ計測 |
研究実績の概要 |
令和3年度は,研究課題の第一目標である,オルガノイド計測用高分解能力センサプローブの開発及び提案するプローブを用いたオルガノイド計測実証実験に取り組んだ. 本研究で提案する水晶振動式力センサプローブは,振動子に力が印加された際に,その力に対し共振周波数が変化する特性を応用したセンサである.我々は,振動子を厚みの異なる水晶ウェハで挟み込んだ,カンチレバー形状のセンサを作製し,振動子部分に応力が集中する構造により,高い分解能を有するセンサを設計した.材料力学及び有限要素法を用いたシミュレーションに基づいて詳細な設計が行われ,微細加工を用いてセンサは作製された.作製されたセンサの分解能は2.7×10^2 nNとなり,設計通りに高い力分解能を達成した. また,作製したプローブを用いてオルガノイド硬さ計測の実証実験を実施した.実験では,オルガノイドに変形を与えた際に,変形量の増加に伴いより大きな反力が得られることを確認した.実験結果より,その硬さを定量的に評価するため,我々は弾性球の大変形モデルを用いたヤング率推定を行った.推定結果では,数キロパスカル程度のヤング率がえられており,この結果は従来研究にて行われたAFMでの硬さ計測と近しいものである.また,実証実験ではオルガノイド以外にポリジメチルシロキサン(PDMS)を用いたビーズを用いて硬いサンプルを模擬した実験を行った.PDMSビーズにおいても,PDMSの一般的なヤング率に近しい値を得ることに成功し,提案する計測系が,柔らかいものから硬いものまで計測が可能で,ばらつきの大きなオルガノイドの計測に適していることを確認した.以上の結果より,これまでの取り組みによって,提案する水晶振動子プローブを用いた計測手法でのオルガノイド硬さ評価を達成した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和3年度の進捗目標は,研究の要素技術である水晶振動式力センサの分解能向上及び改良したセンサでのオルガノイド計測の実証実験であった. 要素技術となる部分では,分解能2.7×10^2 nNNという高い分解能を有するカンチレバー型のセンサを作製することに成功しており,分解能向上という点については十分達成できていると考えられる.加えて,このセンサに対し十分な防水処理及び発振回路の改良を行うことで,オルガノイドの実験環境である培養液中利用上の課題についても解決している. また,オルガノイドの実証実験についても予定通り進捗があり,作製したセンサプローブを用いてオルガノイドの反力を計測し,大変形モデルを適用することでそのヤング率を推定することに成功した.オルガノイドに加えて,メガパスカルオーダーのヤング率を有するポリジメチルシロキサンを材料とする人工ビーズの硬さ計測にも成功しており,水晶振動式力センサプローブのワイドレンジは本計測系において活用することが可能であり,生体組織のような個体差の大きな対象を計測するにあたって適していることも確認した. 研究内容のアウトプットについても順調であり,上記の研究報告は,既にIEEE Robotics and automation lettersに採択されているだけでなく,2022年度5月に開催されるIEEE International Conference on Robotics and Automation にて発表予定となっている.
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究において,オルガノイドの静的な特性であるヤング率を硬さの指標として評価した.しかし,これまでの計測結果では健常なオルガノイドと脂肪肝の症状を再現したオルガノイドの間の硬さの違いについて十分な議論ができていない.また,これまでの結果において,オルガノイドに変形を与えた際の反力には,応力緩和といった粘性などによる動的な特性が含まれていることが分かった.この粘性などは,細胞や組織間のつながりなどに関わるパラメータであり,オルガノイドの硬さは,静的な特性だけでなく,このような動的な特性を評価することが,より詳細な評価につながると考えられる. そこで,今後はオルガノイドのサンプル数を増やし,結果に関する考察を深めるとともに,粘弾性的な硬さを,動的,静的な特性の二つを軸として評価を進める.具体的に,静的な硬さについてはこれまで通りの手法で計測を進めるとともに,AFMなどを用いた計測を併用してその計測手法の誤差等についての評価を行う.また,動的な硬さについては,オルガノイドに接触させたセンサプローブを一定周期で振動させ,その際の振幅減少や位相差から,オルガノイドの有するダンパ成分を評価し,粘性の計測手法を確立するとともに,動特性という観点で見た健常なオルガノイド及び病変モデルのオルガノイドの違いについて調査する. 既に粘性特性を調査するため,振動を加えるための計測系については構築中であり,近日中に計測実験を行い,粘性評価を行う.また,9月までを目標に,AFMを併用した硬さ特性評価を進め,現在の計測手法の誤差評価を行う予定である.
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