当該特別研究員は,令和5年度は水晶振動子の周波数検出技術の開拓及びそれを応用した粘弾性計測に取り組んだ.水晶振動子力センサのサンプリングレート改善のために考案されたPhase-locked Loop(PLL)統合型水晶振動子力センサは,センサの周波数出力を入力とし,PLL内部の発振器を入力信号と同調させるための制御電圧を出力とすることで, サンプリングレートを従来の100 Hzから1 kHzへと大きく向上させている. 応用として実施した粘弾性計測では,プローブを振動させて対象のオルガノイドを変形させ,その際のプローブの変位と計測された反力より,動的弾性率の評価を行った.水晶振動子力センサの高い剛性により,周囲環境や計測対象からの反力による変形を小さくし,動的な入力を加えることが可能となり,かつ高速サンプリングによって50 Hzまでの周波数応答評価が実現した.オルガノイド全体を変形させた評価は,表面の微小範囲を走査する従来手法に比べ高速に計測が行えるほか,組織構造による影響を含めて計測が可能である点で,3次元的な構造を有するオルガノイド,スフェロイドといった組織体評価での活躍が期待できる. 当該特別研究員は,採用課題「水晶振動子センサプローブによる肝オルガノイドのハイスループットスクリーニング」に対し,採用期間中に,剛性と分解能を両立したカンチレバー型センサプローブ,サンプリング高速化を行うPLL統合型周波数検出回路を実現し,これらを組み合わせることでオルガノイドの粘弾性評価が可能な計測デバイスを提案した.そして,本研究課題を通して,複雑化する組織体の評価を可能にした,再生医療分野や創薬に対する応用としての貢献と,サンプリングレート高速化による水晶振動子力センサの基盤技術開発としての貢献をしめしている.
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