研究課題
これまで貧酸素をモニタリングする手法としては船舶による観測や観測ブイに よる連続モニタリングが行われてきた.しかし,前者は観測 に労力がかかるため,頻度に制約があり,後者は装置が高価なため,設置可能な場所が限られていた.貧酸素水塊の挙動を把握し,沿岸生態系の変化を明らかにするためには,貧酸素とそれに関わる物資循環の 変化を広範囲かつ連続的に把握する手法を確立する必要がある.二枚貝の貝殻を利用した遡及的な環境モ ニタリング(MusselShell Watch)はこの問題を解決することが期待できる.本研究では貧酸素の影響が場所によって異なる英虞湾と、貧酸素の影響が強い東京湾において、溶存酸素濃度のモニタリングと、それぞれ二枚貝の垂下飼育実験や採取、また同時に採水を行い、海水中の酸化還元状態に伴って変化する海水中の微量元素や安定同位体濃度比と貝殻の化学組成の変化を調べることで、貝殻を貧酸素モニタリングの可能性を検討した.英虞湾ではアコヤガイを対象として、垂下飼育実験をおこなった.飼育後のアコヤガイ貝殻の微量元素を分析したところ、貧酸素発生時期の成長量の低下と貝殻の一部でMn濃度の高い場所があることがわかった.海水中のマンガン濃度も貧酸素水塊が発生している時期には底層で濃度が高かった.東京湾では貧酸素の影響が異なる時期に採水とホンビノスガイの採取をおこなった.調査の結果、東京湾では冬季に海水中および貝殻中でMn濃度が高い現象がみられた.一方で貧酸素発生時期には海水中DICの同位体比が低下し、貝殻中の炭素安定同位体比濃度も低下した.これらの研究から、貝殻を利用した貧酸素モニタリングを実施する際には、海域ごとに適切な指標を利用することが必要であることが明らかとなった.
すべて 2024 2023
すべて 学会発表 (3件)