研究課題/領域番号 |
22J00145
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
横手 康二 東京大学, 経済学研究科, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2022-04-22 – 2025-03-31
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キーワード | マーケットデザイン / マッチング / 離散凸解析 |
研究実績の概要 |
令和4年度の主な実績として、査読付き学術雑誌に一本の論文を掲載した。また、国際学会での研究報告を一件行った。 雑誌に掲載された論文では、経済学と離散数学の橋渡しをする研究を遂行した。離散数学のツールを経済学に応用するためには、それぞれの分野で用いられる仮定の関係性を明らかにすることが重要である。経済学における「代替性」と呼ばれる仮定と、離散数学における「M凸性」と呼ばれる仮定が同値であることを、先行研究よりも弱い条件の下で証明した。特に、既存研究で用いられた幾何的な証明ではなく、価格を逐次的に修正していくという経済学的な証明を与えたという意義がある。この証明は、代替性以外の分析にも応用できる可能性がある。 国際学会での報告は2022年7月に行った。扱った研究テーマは、制約下での非分割財の分配である。現実での分配問題は、様々な制約に直面し得る。例えば、ワクチン接種の受け入れ枠を分配する場合、各接種会場の容量やワクチンの備蓄量といった制約がある。これらの制約が存在するケースでも望ましい分配を実現するアルゴリズムを提示した。本研究の貢献として、どのような制約が許されるのかについて、離散数学の言語を用いて記述したことが挙げられる。 上述の研究以外に遂行した研究として、多様性を考慮したマッチングの分析が挙げられる。学校選択制度等の現実のマッチング問題では、マイノリティーの学生を受け入れる等の多様性に関する目的が存在する。多様性に関する目的を最大限に実現し、かつ各人の選好を反映したマッチングを発見するアルゴリズムを提示した。本研究は海外の研究者との共同で進行しており、二本の working paper を申請者のHP上で公開している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和4年度は計画していた論文の掲載と国際学会での報告を共に実現することができた。また、海外の研究者との共同研究も開始し、working paperも執筆した。そのため、おおむね順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、主に三つの研究を推進する。 一つ目は、これまでの研究でも扱ってきた「多様性を考慮したマッチング」の研究である。理論的な分析については概ね完了しているため、今後は成果の発表に力を注ぐ。2023年8月には国際学会での研究報告を予定している。また、すでに二本の論文を学術雑誌に投稿済みであり、それらの改訂作業を進めていく。 二つ目は、「近似的な安定マッチング」の発見方法についての研究である。安定マッチングとは、マッチング問題に属するどの参加者も別の相手とマッチしたいと望むことがない状況を意味する。これまでの研究では、安定マッチングの存在を保証するために、「代替性」と呼ばれる仮定を課してきた。しかし、現実においては、この仮定が満たされるとは限らない。例えば、保育所の受け入れ枠の分配において、兄弟の子供を同じ保育所に入れたい親がいる場合、代替性は成り立たない。近年の研究において、代替性が成り立たないケースでも、安定マッチングに非常に近い状況(=近似的な安定マッチング)が存在することが証明されている。しかし、既存研究では、近似的な安定マッチングをどのように発見するのかは十分に明らかにされていない。今後の研究では、離散凸関数の最小化アルゴリズムをマッチング問題に応用し、新たな発見方法を開拓する。2023年度内にはworking paper を公開することを目指す。 三つ目は、マッチング市場に政府が介入する影響の研究である。近年、現実のマッチング市場に政府が介入する事例が増えている。例えば、保育所の受け入れ枠を分配する問題に政府が介入し、利用料金の公定価格を導入するケースがある。これまでのマッチング理論の研究ではあまり注視されてこなかった政府というアクターを取り入れ、理論モデルを発展させる。特に、現実の政策が及ぼす効果を分析できるモデルを構築することを目指す。
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