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2022 年度 実績報告書

星間マイクロ波異常超過放射の起源解明:アモルファス星間塵の量子物性理論の開拓

研究課題

研究課題/領域番号 22J00388
配分区分補助金
研究機関東京大学
特別研究員 梨本 真志  東京大学, 理学系研究科, 特別研究員(PD)
研究期間 (年度) 2022-04-22 – 2025-03-31
キーワード星間塵
研究実績の概要

本研究は,電波天文観測によって全天で発見されている正体不明の電波放射である星間マイクロ波異常超過放射(AME)の起源解明を目指し,AMEの放射起源の候補の一つとして先行研究によって提案されているアモルファス星間塵についての検証を行う.その第一段階として,アモルファス星間塵の電波放射メカニズムに関する理論モデルの構築を行った.先行研究で提案されているアモルファス星間塵の電波放射モデルは,物質の温度が1K以下での熱容量や熱伝導度の温度依存性に見られるアモルファス物質特有の普遍性を説明するために導入された物性モデルを光物性にも適応したモデルであるが,10K付近で発見されている特異な温度依存性については再現することができない不完全なモデルに立脚しているという問題点を抱えていた.本研究では,この問題点を克服するために物性物理学の分野で導入されたソフトポテンシャルモデルをアモルファス星間塵の光物性に初めて適用した.ソフトポテンシャルモデルでは,アモルファス星間塵を構成する原子が四次関数で記述されるポテンシャルに束縛されていることを仮定し,その原子と電場の相互作用を量子論的に解くことでアモルファス星間塵による放射スペクトルを計算することができる.この理論モデルを数値的に解き,アモルファス星間塵の任意の物性値に対して放射スペクトルを与える計算コードを開発した.本研究によって,アモルファス物性の第一原理的な解法に基づくアモルファス星間塵放射スペクトルが得られるようになり,高精度化が進む電波天文観測データと星間塵放射の理論モデルとの比較へ向けた足がかりとなる.

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

3: やや遅れている

理由

本研究は,アモルファス物性の普遍性を説明するために熱物性分野で提案されているソフトポテンシャルモデルをアモルファス星間塵の光物性へと初めて適応し,アモルファス星間塵の電波放射スペクトルの理論モデル構築を行うものである.本研究ではまず,ソフトポテンシャルモデルに基づいてアモルファス星間塵を構成する原子と電場の相互作用を記述するシュレディンガー方程式を出立点として,アモルファス星間塵の吸収断面積を導出し,その定式化を図った.その定式に則り,吸収断面積を算出するための数値計算コードのプログラミング開発を行った.開発した数値計算コードから得られる計算結果が数学的に正しいことを,漸近的な場合に解析解と近似することを確認することで検証した.次の段階として物理的にも有意な解を得られる理論モデルであるかの検証を行うため,国際研究会に参加し,多分野の研究者から批判をいただくことで本研究で初適応した新しい理論モデルを多角的に検証する研究計画であったが,当初参加を予定していた研究会がCovid-19の影響もあって開催延期となり,その機会を逸してしまった.そのため,当初の研究計画と比べると検証作業に遅れが生じてしまった.進捗は遅れたものの理論モデルの物理的な側面の検証も完了し,本研究で構築したアモルファス星間塵電波放射モデル,及びその数値計算コードは天文観測データや実験室測定データとの比較に向けて適用できると結論づけるに至った.

今後の研究の推進方策

本研究の目標は,電波天文観測によって全天で発見されている正体不明の電波放射である星間マイクロ波異常超過放射(AME)の起源解明を行うことである.そのために,AMEの放射起源の候補の一つとして先行研究によって提案されているアモルファス星間塵について,その電波放射モデルを刷新し,放射スペクトルを算出するための計算コードを新たに開発した.今後は理論モデルを構築して開発した放射スペクトルと天文観測データを比較し,他波長帯の観測データやアモルファス物質の実験室測定データと齟齬なくAMEを説明することができるかを検証するとともに,アモルファス星間塵の化学組成や結晶構造の同定を目指す.観測との比較の第一段階として,AMEが顕著であることが知られている分子雲などの天体に対して,モデルフィッティングを行い,精度よく観測データを再現することができるか,また既存の理論モデルや他のAME放射起源候補モデルと比較してどちらがより良いモデルであるかを定量評価する.
一方で,開発したアモルファス星間塵放射スペクトル計算コードは計算コストを度外視しており,大規模データとの比較に際して適切ではない.AMEの起源解明に向けてその統計的な性質を調べることは必須の課題である.そこで,計算コストを下げるために,計算定式の簡略化に向けた近似の導入を行う.現在までに得られている観測データの精度と比較しつつ,計算精度を損なわずに計算コストを抑え,大規模データとの比較が高速で行えるように計算コードを改良する.

  • 研究成果

    (1件)

すべて 2022

すべて 学会発表 (1件) (うち国際学会 1件)

  • [学会発表] Developing the Physically Motivated Amorphous Dust Sub-millimeter Emission Model2022

    • 著者名/発表者名
      Masashi Nashimoto
    • 学会等名
      Galactic science and CMB foregrounds
    • 国際学会

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公開日: 2024-12-25  

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