今年度は主として、本研究の一つ目の課題である、人格概念と感情の関係を明らかにすることに取り組んだ。特に、D.ヒュームの哲学から、この主題に関する重要な示唆を得た。無生物とは区別されるような、責任帰属の対象となる意味での「人格」を、ヒュームはある種の感情に訴えることで説明しようとする。しかしこの説明において、感情と人格との関係は、二つの異なる解釈を許す。一つは、怒りなどの感情は、既に責任を備えた人格への反応であり、責任を構成する特徴は、反応独立的であるというものである。もう一つは、感情がまさに責任概念を構成するという反応依存的な説明である。私は、ヒュームが、反応依存的な人格・責任概念を採用し、より深い意味での感情主義的な人格論を提示しているという主張に至った。この成果は国際雑誌に掲載されることが決定しており、Hume Studies Essay Prizeを受賞した。これ以外にも、徳と感情の関係、感情と懐疑論の関係といった、当該研究課題に関連する研究発表を行なった。並行して、上記の成果が競合する見解に比して正当化できるものであるかどうかの検討のため、また残っている研究課題に取り組むための基礎的概念の整理のために、主として行為の哲学や倫理学の文献の調査を行った。
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