• 研究課題をさがす
  • 研究者をさがす
  • KAKENの使い方
  1. 課題ページに戻る

2022 年度 実績報告書

栄養応答型の新規脱分化現象に基づく腸管適応成長と分化可塑性の新機軸

研究課題

研究課題/領域番号 22J01430
配分区分補助金
研究機関東京大学

研究代表者

長井 広樹  東京大学, 薬学系研究科, 特別研究員(PD)

研究期間 (年度) 2022-04-22 – 2025-03-31
キーワード脱分化 / 栄養応答 / 腸内分泌細胞 / 組織サイズ制御 / ショウジョウバエ
研究実績の概要

本研究では、申請者が見出した栄養環境に応答した腸内分泌細胞の脱分化現象について、(1)そのメカニズムを明らかにすること、(2)栄養摂取に伴って起こる腸管サイズの増大に脱分化が寄与するか明らかにすること、(3)他の細胞運命転換現象とメカニズムを比較することで、脱分化に共通の原理と、栄養応答型の脱分化に特有の原理を理解することを目的としている。今年度は、(1)について脱分化誘導に重要な栄養素を同定し、(2)について、遺伝学的に脱分化細胞を除去する実験系を確立した。
(1)について、化学合成エサ(holidic medium)を用いて、特定の栄養素を欠いた際に脱分化誘導が阻害されるかを検証した。その結果、グルコースおよびアミノ酸を欠いた場合に脱分化頻度が減少した一方で、holidic medium中の脂質源であるコレステロールを欠いた場合には脱分化頻度は変化しなかった。グルコースとアミノ酸の両方を欠いた場合、脱分化はほぼ完全に抑制された。興味深いことに、飢餓状態からグルコースとアミノ酸を与えるだけで脱分化が誘導されたが、その頻度は全ての栄養素を与えた場合と比べると低かった。以上から、グルコースとアミノ酸が脱分化誘導に重要であること、他の未同定の栄養素も脱分化を促進することが明らかになった。
(2)について、Gal4-UASシステムとQF-QUASシステムの2種類を組み合わせることで、腸内分泌細胞に由来する幹細胞、すなわち脱分化によって生じる腸管幹細胞を特異的に細胞死させるショウジョウバエ系統を確立した。脱分化由来の幹細胞をGFPでラベルすることで、細胞死を効率的に誘導できていることを確認した。重要なことに、細胞死誘導により、栄養摂取に応じた幹細胞数の増加と、それに続く腸管のサイズ増大が有意に抑制された。以上から、栄養応答型の脱分化が腸管の適応成長に重要であることが明らかになった。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

成熟した生体内において、組織を構成する分化細胞は組織幹細胞が失われると脱分化を起こすことが知られている。本研究は、栄養摂取に応じた腸管の適応成長という損傷再生とは異なる生理的状況において、腸内分泌細胞が腸管幹細胞へと脱分化するという新たな細胞可塑性を解析するものであり、今年度、そのメカニズムと生理的意義の解明を推進した。
メカニズムに関して、化学合成エサholidic mediumを用いて脱分化誘導に関与する栄養素に迫った結果、脱分化の誘導にグルコースとアミノ酸の摂取が必要であることが明らかとなった。重要なことに、グルコースとアミノ酸のみを摂取させるだけで一定の脱分化が誘導されたことから、これらの栄養素が脱分化誘導の最小単位であると考えられた。この成果は、今後、代謝産物による細胞可塑性の制御メカニズムに迫る基盤となる、重要な発見である。
生理的意義について、腸内分泌細胞から脱分化した腸管幹細胞を特異的に操作できる遺伝学的な実験系を構築し、脱分化によって生じた腸管幹細胞に細胞死を誘導、あるいは有糸分裂を阻害することで、栄養摂取に応じた腸管の適応成長が抑制されることを示した。これまで、脱分化由来の幹細胞の機能阻害を行なって生理的意義を示すことは容易でなかった。今回構築した実験系は他の可塑性現象にも応用できるものであり、個体内で起こる運命転換の機能解析を可能とする功績である。
以上の成果は学会賞の受賞をはじめ、高い評価を得ている。また、今年度は可塑性研究に関する英文総説を執筆し、分野の動向と将来展望を論じた。以上のように、本研究は期待通り進展している。

今後の研究の推進方策

腸内分泌細胞のうち脱分化を起こすポピュレーションは一部である。したがって、脱分化メカニズムについて、脱分化能を持つ内分泌細胞の亜群を明らかにする。今年度に取得した腸管のシングルセルRNAシーケンスデータを用いて分化軌道解析を行い、脱分化を起こすサブポピュレーションを同定する。分化軌道解析の結果は、ショウジョウバエ個体で細胞系譜追跡実験を行うことで確認検討する。また、今年度に脱分化誘導への必要性を見出したグルコースとアミノ酸について、どのような代謝産物が脱分化誘導を担っているかを明らかにすべく、代謝経路で働く遺伝子の発現を抑制し、細胞系譜追跡実験から脱分化が阻害されるかを検討する。さらに、損傷再生時の細胞運命制御にはNotchシグナルやWntシグナルといったシグナル伝達経路が関与することが知られていることから、栄養応答型の脱分化に重要なシグナル経路の同定も実施する。以上から得られた情報を元に、脱分化亜群におけるシグナル経路の活性、またシグナル活性化と栄養環境の相互作用を解析し、脱分化を制御する栄養とシグナル経路のメカニズムを解明する。
(3)について、ショウジョウバエでは生殖幹細胞の系譜や筋組織において、幹細胞の損失時や変態時に脱分化が起こることが知られている。そこで、上記の解析から見出した栄養素やシグナル経路が、それらの細胞運命転換にも寄与するかを検証する。上記の解析から得られた成果は国内外の研究集会において発表、議論するとともに、原著論文として投稿する。

  • 研究成果

    (7件)

すべて 2023 2022

すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (6件) (うち国際学会 1件)

  • [雑誌論文] Cellular mechanisms underlying adult tissue plasticity in Drosophila2022

    • 著者名/発表者名
      Hiroki Nagai, Masayuki Miura, Yu-ichiro Nakajima
    • 雑誌名

      Fly

      巻: 16 ページ: 190-206

    • DOI

      10.1080/19336934.2022.2066952

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [学会発表] Nutrient-driven dedifferentiation of enteroendocrine cells promotes adaptive intestinal growth2023

    • 著者名/発表者名
      Hiroki Nagai, Luis Augusto Eijy Nagai, Sohei Tasaki, Ryuichiro Nakato, Masayuki Miura, and Yu-ichiro Nakajima
    • 学会等名
      64th Annual Drosophila Research Conference
    • 国際学会
  • [学会発表] 栄養摂取に応じた腸内分泌細胞の脱分化が腸管増大を促進する2022

    • 著者名/発表者名
      Hiroki Nagai, Luis Augusto Eijy Nagai, Ryuichiro Nakato, Masayuki Miura, Yu-ichiro Nakajima
    • 学会等名
      第21回東京大学生命科学シンポジウム
  • [学会発表] 栄養環境の変動に応答した腸内分泌細胞の脱分化現象の同定2022

    • 著者名/発表者名
      長井広樹、Luis Augusto Eijy Nagai、中戸隆一郎、三浦正幸、中嶋悠一朗
    • 学会等名
      第74回日本細胞生物学会大会
  • [学会発表] 栄養環境に応じた腸内分泌細胞の脱分化現象の発見2022

    • 著者名/発表者名
      長井広樹、Luis Augusto Eijy Nagai、中戸隆一郎、三浦正幸、中嶋悠一朗
    • 学会等名
      第33回高遠シンポジウム
  • [学会発表] Nutrient-driven dedifferentiation of enteroendocrine cells promotes adaptive intestinal growth2022

    • 著者名/発表者名
      Hiroki Nagai, Luis Augusto Eijy Nagai, Ryuichiro Nakato, Masayuki Miura, and Yu-ichiro Nakajima
    • 学会等名
      第15回日本ショウジョウバエ研究会
  • [学会発表] 腸内分泌細胞の脱分化が栄養環境に対する腸管適応成長を促進する2022

    • 著者名/発表者名
      Hiroki Nagai, Luis Augusto Eijy Nagai, Sohei Tasaki, Ryuichiro Nakato, Masayuki Miura, and Yu-ichiro Nakajima
    • 学会等名
      第45回日本分子生物学会年会

URL: 

公開日: 2023-12-25  

サービス概要 検索マニュアル よくある質問 お知らせ 利用規程 科研費による研究の帰属

Powered by NII kakenhi