最終年度では、数十人の参加者を対象とする実験室心理実験を実施し、周辺視野における情景認知と色知覚の関係性について、さらなる知見を得た。先行研究では、情景認知における色の貢献は、自然物を描写した自然情景に限定されるとされていた。本研究の初年度の実施を通して、周辺視野では人工物を描写した人工情景においても色が貢献することが明らかになった。最終年度では、このような現象がみられる理由として、人間の周辺視野における視覚特性に着目した。周辺視野では視力が低下するため、高空間周波数成分の減衰が生じる。本研究を通じて、このような周波数成分の変化が、人工情景においても色の効果が観察される原因であるという可能性を明らかにした。研究期間全体を通じて実施した研究の成果としては、まず、周辺視野における色知覚がどのように行われるかについて、周辺視野において色がついていない画像に対しても色がついているように感じるという「周辺色錯視」現象を題材とし、このような周辺色錯視が周辺視野における視覚的注意の乏しさにより部分的には説明できることを、二重課題を用いた実験を通して明らかにした。さらに、この周辺色錯視現象が、情景認知と深くかかわりがある現象であることに着想を得て、周辺視野における情景認知と色知覚の関係性についても調査した。その結果、色感度が低いと考えられている周辺視野でも情景認知に色が貢献していることを新たに示すとともに、その色は典型色である必要があること、つまり、視覚系が過去の経験を通じ獲得した情景と色の連合関係を周辺視野における情景認知に利用していることを明らかにした。また、色の効果と情景種類(自然情景か人工情景か)の関係についても明らかにした。まとめると、本研究を通して、これまで未解明の部分が多かった周辺視野における情景の把握と色の知覚の関係性が解明されたということができる。
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