研究課題/領域番号 |
22J10485
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
小正路 崚太郎 東京大学, 理学系研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2022-04-22 – 2024-03-31
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キーワード | 結晶構造予測 / 新物質探索 / 最密球充填構造 / 三元系 / 四元系 / 超伝導 / 高圧水素化物 |
研究実績の概要 |
最密球充填構造を構成する単体金属は多く、酸化物中の酸素イオンが最密球充填構造を構成することが多いなど、空間充填原理から理解できる結晶構造は多い。 私たちは、過去数年に渡り最密球充填構造に着目した結晶構造プロトタイプの導出に取り組んできた。問題の単純さにも関わらず、FCC構造は最密球充填構造であるというケプラー予想の肯定的証明は2000年代に認められた。一方で、二元系最密球充填構造(DBSP)については、近年、計算機を用いて様々な構造が予測されていたのみであり、2011年にはプリンストン大学のグループは、初めてDBSPのマップを作製していた。私たちは、独自の最密球充填構造探索手法を開発し、計12種類のDBSPを発見することに成功していた。 そこで、まず、未開拓であった三元系最密球充填構造マップを作成するという研究を完遂した。私たちが発見した三元系最密球充填構造は計59種類となった。発見した構造のいくつかは高い対称性を持ち、例えば(13-2-1)構造は、小球が大球のおよそ40%の半径を持つにも関わらず、小球のネットワークがFCC構造を取る大球を取り囲み、四面体サイトには大球のおよそ60%の半径を持つ中球が挿入されている。 また、私たちは、高圧下の超伝導水素化物であるLaH10やYH6の結晶構造がDBSPに対応していることに気づいていた。それらの水素化物には超高圧が必要とされるため、より低圧で超伝導性を示す水素化物を探索する領域として、三・四元系が期待されており、まだ探索が始められたばかりであった。そこで、同様の構造特性を持つ(13-2-1)構造と(13-3-1)構造に着目し、比較的低圧の10GPaで安定となる四元系水素化物を網羅的に探索した。その結果、少なくとも23種類の水素化物が安定であることが分かり、ScY2CaH12の超伝導転移温度は10GPaで5.7Kであることを予測できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
結晶構造予測手法を開発する第一歩として最密球充填構造の研究に取り組んでいた。空間充填原理は簡潔な指導原理であるものの、ケプラー予想の証明には400年を要するほどの難問である。二元系最密球充填構造は計算で予測する研究は進められていたものの、三元系最密球充填構造を本格的に探索する研究は未開拓であった。また、一般に、三・四元系などの複雑結晶構造を持つ物質の予測は難しく、四元系の高圧水素化物を予測する研究も未開拓であった。 私たちは、独自の最密球充填構造探索アルゴリズムで二元系の先行研究を全て再現した上で一部修正し、新構造を発見することにも成功していた。そこで、まず、三元系最密球充填構造を網羅的に探索し、それに基づき、比較的低圧の10GPaで安定となる四元系水素化物を網羅的に探索するという研究を完遂したものの、想定以上に時間を取られてしまった。 結晶構造予測手法の開発にも進展はあった。最密球充填構造と結晶構造には構造特性に違いがあった。結晶構造予測には、結晶化学の知見に基づき、全ての結晶構造の決定要因を有効に利用する必要があることを再確認した。これらの検討段階において、配位多面体の形成に強いインセンティブを与えた時間発展的な手法で、コランダム構造とスピネル構造をかなりの再現性で構成するアルゴリズムを見出した。まだ単位格子を固定しているものの、結晶構造を決定づけるいくつかのパラメータを適切に利用すれば、高い確率で大域最適解を発見できる手法を開発できる可能性がある。
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今後の研究の推進方策 |
まず、最安定な結晶構造を多項式時間で求める数理計画法を解析的に模索した。2022年には、量子計算機を用いて最安定の化学構造を予測する手法を議論した論文が出版されていた。量子計算機では、異なる化学構造を独立した確率的状態として扱うことができるため、凸計画問題となり大域最適解を一意に定めることができる。ただし、原子の配置パターンは原子数に対して指数関数的に増大するため、通常のノイマン型計算機には適用できない手法である。様々な数理計画法を調査し、結晶の全エネルギーを様々な形式で書き直してみたが、多項式時間で大域最適解を求める方法を発見することはできなかった。 しかし、これらの検討段階において、配位多面体の形成に強いインセンティブを与えた時間発展的な手法で、コランダム構造とスピネル構造をかなりの再現性で構成するアルゴリズムを見出した。まだ単位格子を固定しているものの、結晶構造を決定づけるいくつかのパラメータを適切に利用すれば、高い確率で大域最適解を発見できる手法を開発できる可能性がある。実際の結晶構造は、空間充填原理や共有結合、イオン性や局在電子など、様々な要因が複雑に絡み合って最安定構造を決めているものの、まずは酸化物に焦点を定め、来年度中に何らかの成果を公開する予定である
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