研究課題/領域番号 |
22J11194
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
岸野 祐也 東京大学, 大学院医学系研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2022-04-22 – 2024-03-31
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キーワード | FUS / ALS / FTLD |
研究実績の概要 |
筋萎縮性側索硬化症(ALS)や前頭側頭葉変性症(FTLD)などの神経変性疾患の患者の一部では、神経細胞内にFUSからなる封入体が認められる。本研究では、この封入体が神経毒性を発揮することが疾患の原因となるとの仮説に立脚し、FUSの凝集体形成機構および凝集体形成による神経毒性発揮機構の解明を目指し、検討を行っている。 1) 培養細胞において、Casein kinase 1 δ/ε(CK1δ/ε)によりFUSがリン酸化され、可溶性が上昇することを見出した。次に、FUS トランスジェニックショウジョウバエ(TG fly)を用いて神経毒性の評価を行ったところ、FUSの複眼特異的TG flyもしくは運動ニューロン・感覚ニューロン特異的TG flyにおいて、CK1δの共発現により毒性が減弱する結果を得た。これらの結果により、FUSの可溶性上昇が神経毒性減弱に繋がる可能性が示唆された。 2) 培養細胞にメチル化抑制剤であるadenosine dialdehyde処理を行うことで、FTLD-FUS患者のニューロンで認められるFUSのarginine hypomethylationを起こした結果、FUSの可溶性が低下した。また、塩濃度の勾配を用いた分画方法のもとで、ショウジョウバエでの神経毒性が軽減することが報告されているallS変異(FUSのlow complexity domain内のチロシンを全てセリンに変異させた変異体)による可溶性の上昇が認められた。 3) 培養細胞内でFUSを集めて凝集体を形成させることを目的として、青色光照射で集まる Cry2oligタグを付加したCRY2olig-mCherry-FUSを培養細胞に発現させた結果、青色光を長時間照射した場合にはCRY2olig-mCherry-FUSが細胞内で集まることを共焦点顕微鏡下で確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、課題遂行のため、下記の2つのテーマで研究を進めている。 ①FUSの凝集体形成機構の解明および凝集体形成による神経毒性発揮機構の解明: 青色光照射によって培養細胞内でCRY2olig-mCherry-FUSが集まることを確認し、今後の実験に利用していく土台を築くことができた。 ②凝集体形成の制御を標的としたFUS-proteinopathy治療法開発: CK1δ/εによるリン酸化によって培養細胞でFUSの可溶性が上昇すること、および、CK1δの共発現によってFUS TG flyの神経毒性が軽減することを見出し、国際雑誌および国内学会で発表することができた。FUSによる神経毒性を抑制する端緒を見出したといえる。更に、リン酸化以外にも、FTLD-FUS患者のニューロンで認められるFUSのarginine hypomethylationも可溶性に影響を与えることを確認したほか、界面活性剤の有無や強弱ではなく塩濃度の高低を利用した新たな分画方法でも野生型FUSとallS変異FUSに違いが認められることが分かった。 以上より、研究はおおむね順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
①FUSの凝集体形成機構の解明および凝集体形成による神経毒性発揮機構の解明: 青色光照射により培養細胞内でCRY2olig-mCherry-FUSを集める系を用いて、FUSが凝集した場合に細胞でどのような変化が起きるのかをRNA-seqによって検討するほか、FUSが凝集した場合と凝集していない場合に相互作用分子に違いがあるのかを質量分析などによって評価する。 ②凝集体形成の制御を標的としたFUS-proteinopathy治療法開発: 塩濃度の高低を利用した分画方法を用いて、野生型FUSとALS関連変異型FUSとの間に可溶性の差があるのかを検討し、可溶性と毒性との関係を評価する。また、CK1δ/εによるリン酸化・arginine hypomethylation・ALS関連変異などの変化が凝集の程度にどのような影響を与えるのかも明らかとすることを目指す。
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