令和5年度にはアンモニア電解合成に向けたプロトン伝導性セラミック電解セル(PCEC)における電気化学的触媒促進効果の反応機構に基づいたセル開発と水蒸気を直接利用する新たなシステムの提案と実証を目指し、セルの開発および電気化学評価を実施した。まず、昨年度実施したカソード電極開発において、鉄電極と電解質の界面で拡散によるセリア系反応層が形成することを確認したが、その層の影響は解明されていなかった。本年度には、その結果から着想したセリアと鉄の混合電極を開発し、セリアと鉄の相互作用によるアンモニア生成の促進を実現した。一方で、反応機構を探るために昨年度装置改造を行った拡散反射型赤外分光測定については、セルに電圧を印加させるその場測定は可能となったが、固体セルを用いた高温での窒素等の吸着測定は技術的に困難であることが示された。また、二室型セルを用い、アノード電極で水蒸気電解を直接行う系を検討した。従来、PCECによるアンモニア電解合成ではアノードに水素ガスが供給され、その水素を製造するために別途水電解の過程が必要とされる。そこで、水蒸気電解を直接アノードで行い、アンモニア生成反応の競合反応として生成する水素をカソードにリサイクルする想定で、水蒸気電解と電気化学的触媒促進効果を一体化させる新たなシステムを提案した。また実験ではアノードで直接水蒸気電解を行い、カソードの水素分圧を増加させることにより、電気化学的触媒促進効果によりアンモニア生成速度が非ファラデー的に上昇する様子を確認し、水蒸気電解のみを用いる既往研究と比較すると20倍以上のアンモニア生成速度の向上を達成した。令和4年度と5年度の研究実績の総括として、本研究ではアンモニア電解合成の電気化学的触媒促進効果に適した電極開発を行い、また作動温度の低減と、水蒸気を直接利用する系のシステム提案と実験での実証に成功した。
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