恐竜類を中心とした双弓類が持つ多様な鼻腔形態の機能と進化過程を明らかにするため、本研究は各分類群の化石種および現生種の標本を用いて観察を行った。恐竜類から鳥類への進化に関しては、まず現生有羊膜類において内温性動物が外温性動物よりも頭部に対して大きな鼻腔を有することから、脳サイズに応じた血液の温度を調整する生理学的機能が鼻腔にあることを明らかにした。さらに、獣脚類の標本観察を行って頭骨の内部構造の変化を追跡し、獣脚類から鳥類に至る過程で起きた頭骨変化の過程において、祖先的な状態から鳥類様の鼻腔が獲得され、その生理学的機能が発達した時期についても考察を行った。 これらの知見を踏まえ、本研究ではさらに恐竜類以外の双弓類についても鼻腔やその生理学的機能について研究を行った。ワニ類では、特徴的な鼻腔および吻部形態が獲得された発生学的要因について調査を行った。現生ワニ類の個体発生と、偽鰐類からワニ類に至るまでの吻部の形態変化パターンを比べると、それらの間に定量的および解剖学的並行性が見られることが明らかになったため、その進化が異時性的進化パターンとして説明できる可能性が示唆された。また、そのような進化パターンが成立した時期についても考察を行い、生態との関連についても議論を行った。 カメ類では、他の双弓類と比べて吻部の解剖学的知見が不足していたため、重要な吻部器官の一例として血管系に着目した。血管系への含ラテックスインジェクションを行って頭部血管系を記載し、他の現生双弓類との比較を行ったところ、カメ類は他の双弓類と同様に鼻腔で血液の温度調整を行っていることが初めて解剖学的に示唆されたが、一方でその血管系は固有の配置パターンを有することが明らかになった。さらに化石カメ類を調査したところ、そのパターンが成立した時期は、完全な甲羅を獲得した時期に近いことが示唆された。
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