研究課題
内側前頭前皮質の亜領野、前辺縁皮質(PrL)は、恐怖記憶の想起に必要であることが知られており、特に音恐怖条件付け後、恐怖記憶と連合した音に対して応答を強める神経細胞群の活動上昇が重要であることが示唆されている。令和5年度は、前年度に構築した生体脳深部Ca2+イメージング系を活用し、PrL第V層の神経細胞を主たる標的として、恐怖記憶形成から想起にわたり単一細胞解像度で慢性イメージング記録することにより、上述の神経細胞群の同定を試みた。大脳皮質の第V層は皮質構造の中でもII/III層からの局所投射を受ける主要な出力部位であり、PrL第V層は恐怖応答の惹起に必要とされる扁桃体基底外側核および水道周囲灰白質に直接投射を伸ばしていることが知られている。本研究により、音恐怖条件付け後、条件刺激に対して応答を強める神経細胞群がPrLの第V層に存在することが初めて確認された。さらに、この神経細胞群は恐怖記憶形成時の特定の期間において、他の神経細胞群と比較して特異的な活動パターンを示していたことが明らかとなった。これはPrL第V層において、恐怖記憶形成時の神経活動が将来の記憶想起時に活性化する細胞群に影響を及ぼす可能性を示唆する結果である。今後、軸索末端からの逆行性ラベリングと組み合わせたイメージングにより、今回見つかった神経細胞群が特定の脳領域と回路構造を形成しているか検証するとともに、層特異的な神経活動操作実験により恐怖記憶想起との因果関係について調査したいと考えている。
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