最終年度の研究を開始する時点では、VANCサブタイプの1つであるVANC21と標的配列とが1対1で結合した複合体の構造が得られていた。そして最終年度には、密集した結合配列と多量体化したVANC21との「多対多」の複合体の構造解析、及びDNAとの相互作用や多量体形成に必要なアミノ酸残基を変異させたVANC21を用いた機能解析を予定していた。 まず、DNAとの相互作用に関わるアミノ酸残基にアラニン置換を施した変異型VANC21を作出し、VANC21標的配列との結合親和性を生化学的手法により解析した結果、一部の残基について、標的配列の認識への寄与が認められた。しかし、VANC21のDNA相互作用領域を他のサブタイプのVANCと入れ替えることで、標的配列が変化するか検証しようとした試みに関しては、十分な結果は得られなかった。その理由としては、作出した変異型のVANC21多くは可溶化せず精製が難しかったことなどが挙げられる。また、結合配列とVANC21との「多対多」の複合体の構造解析には至らなかった。 一方で、VANCのサブタイプ同士の配列比較と構造情報とを組み合わせることで、想定以上の知見が得られた。例えば、VANC21のDNA相互作用残基の多くはヘリックスなどの特定の構造を取らないループ領域に存在し、その中にはサブタイプ間で保存性が低いものが多く、VANCはDNA相互作用領域のアミノ酸を変化させやすいことが分かった、また、VANCはそのドメイン構成から2つのサブグループに大別されるが、VANC21を含むクレードでのみ保存されている相互作用領域により、認識出来るDNAの塩基長が伸びている可能性が高いことが判明し、VANCの標的配列認識機構の多様性への理解が深まった。これらの知見はVANCのサブタイプレベルでの高い標的配列特異性の分子基盤の理解に大きく寄与するものである。
|