本研究ではイヌの移行上皮癌を対象として血管内皮細胞成長因子(VEGF)およびケモカインであるCX3CL1を介した骨髄由来免疫抑制細胞(MDSCs)の腫瘍組織への浸潤メカニズムについて研究した。 まずイヌ移行上皮癌症例におけるMDSCsと病態との関連を調べた。イヌ移行上皮癌症例では健常犬よりも多くのMDSCsが循環しており、腫瘍組織にも浸潤している様子が観察された。MDSCsと病態との関連を調べたところ、MDSCsの増加がリンパ節転移および病期の進行と関連していた。さらにMDSCsが多い症例では予後が悪いことがわかった。 続いて、MDSCsの遊走因子としてCX3CL1に着目した。イヌ移行上皮癌モデルマウスおよびイヌ移行上皮癌症例から採取したMDSCsはいずれもCX3CL1の受容体であるCX3CR1を発現しており、CX3CL1に対して遊走性を示した。また、CX3CL1を欠損させたイヌ移行上皮癌細胞株を移植したマウスでは腫瘍組織へ浸潤するMDSCs数の低下と共に腫瘍体積の縮小が認められた。さらに、CX3CR1阻害薬の投与でも同様の結果が得られた。 CX3CL1の上流分子としてVEGに着目した。VEGF受容体(VEGFR)を欠損させたイヌ移行上皮癌細胞株ではCX3CL1発現が低下することを明らかにした。また、移行上皮癌細胞株において、VEGFの下流シグナルであるMAPK経路の阻害によりCX3CL1発現が低下することがわかった。 本研究により、イヌ移行上皮癌ではMDSCsが病態の増悪に関与しており、その腫瘍内浸潤機構の一端にCX3CL1およびCX3CR1が関与することを明らかにした。またCX3CL1発現を制御する分子としてVEGF/VEGFRシグナルおよびその下流のMAPK経路が関与することを示した。CX3CL1およびCX3CR1はMDSCsの浸潤を抑制する有効な標的分子になり得る。
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