研究課題/領域番号 |
22J11754
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
内上 寛一 東京大学, 大学院医学系研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2022-04-22 – 2024-03-31
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キーワード | アミロイドβ / タウ蛋白質 / アミロイドアンギオパチー / アルツハイマー病 |
研究実績の概要 |
タウ病理惹起に寄与するAβ分子種を同定するために,アミロイド前駆体蛋白質トランスジェニック (APP tg) マウス脳から複数の抽出方法でAβ粗抽出液を生化学的に得た後,タウtgマウス脳に接種し,免疫組織化学的解析を行った.このうち,tris-buffered saline (TBS) 可溶画分はタウ病理を惹起せず,不溶性画分 (蟻酸可溶画分) はタウ病理を誘発したことから,不溶性画分中にタウ病理惹起を惹起するAβ分子種が存在すると考えられた. Amyloid β (Aβ) の伝播が疑われるヒト症例では,脳アミロイドアンギオパチー (CAA) 病理が目立つことが近年報告されている.我々は,これまでアルツハイマー病 (AD) モデルマウスから抽出したTBS可溶性,高分子量のAβ speciesをseedの本態として同定してきたが,上記背景からCAAとAβ seedの関係性を明らかにすることを主目的として研究を進めた.AD剖検脳を用い,とくにCAAの目立つケースと乏しいケースとの比較や,脳血管・髄膜のみからの抽出と脳実質からの抽出との比較を通して, Aβ seedが脳実質より脳血管・髄膜に豊富に検出され,かついずれもin vivoでseed能をもち,CAAとAβ plaqueをともに惹起すること,またAβ seedがCAAに関連して存在することを示した.さらに,Aβ seedをADモデルマウスの大槽へ投与することで,Aβ plaqueよりもCAAを主として誘発するモデルを作出した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は,前半としてタウ病理を惹起するAβ分子種の同定と,それに基づくAβ分子種依存的なタウ病理進展メカニズムの解明,後半としてAD患者脳におけるAβ seedとCAAの関係性の検討,から構成されている. 前半のAβ分子種依存的なタウ病理進展については,ADモデルマウスの不溶性画分 (蟻酸可溶画分) はタウ病理を誘発したものの,その程度は僅かであり,今後抽出方法やincubation time,接種月齢など,条件検討をおこなうことで,より良い評価系を確立できる可能性がある. 後半について,AD剖検脳から髄膜を剥離し,ゲル濾過クロマトグラフィーなど生化学的手法と組み合わせることで,髄膜からはじめてAβ seedを得ることが可能となった.この系に基づき,CAAとAβ seedとの関連性を探索する中で,CAAはAβ seedを保持する貯蔵庫としての役割があるなど,新たな機能を見出すことができた.またAβ seedを大槽に接種しCAAを誘発する系を構築し,Aβ seedが拡がっていく経路を検証する足掛かりを得た.
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今後の研究の推進方策 |
前半については,タウ病理を惹起するAβ分子種の抽出方法やその他条件検討をおこなうことで,Aβ依存的なタウ蓄積を呈するより良い評価系を構築する.そのうえで,同評価系を用いて,Aβ分子種によってタウの質的な変化が生じるか,また細胞外腔への放出が亢進するかを,それぞれmass spectrometryによるタウ翻訳後修飾の解析やタウバイオセンサーセルへの投与による解析,in vivo microdialysis法を用いた脳間質液タウ量の測定などから明らかにする. 後半については,AD剖検脳を用いたCAAとAβ seedの関係性について,apoE多型別に抽出されるAβ seedを比較するなど,剖検検体をさらに増やして検証を行う. Aβ seedがCAAに豊富に検出されることから,Aβ seedが血管由来の何らかの分子とco-associateしている可能性を考え,AD剖検脳のAβ seedを含む画分を用いて免疫沈降-質量分析 (IP-mass)解析を行い,Aβ seedと結合しうる複数の候補蛋白質を同定する. Aβ seedをマウス大槽へ投与することによって得られる,CAAを惹起するモデルについては,経時的な解析を進め,CAAに存在するAβ seedがglymphatic systemを介して脳実質に伝播する可能性を考え検証するとともに,生体内から得られるAβ seedを濃縮する系を構築し,AD脳脊髄液中からAβ seedが検出されるか,AD病期や進行速度との関連性なども含め検討したい.
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