AD脳のAβ病理は症例によって多様性があることが知られ,老人斑が同程度であっても,CAAが豊富な例から乏しい例など,ケースにより乖離し得る.当研究室では,in vivoでAβ病理進展の凝集核となるhigh-molecular-weight Aβ oligomerであるAβ seed (peak 1 Aβ) を見出している.そこで,peak 1 Aβにはケース毎に分子性状の差異が存在し,それがAβ病理の個体差に寄与すると仮説し,AD脳でもCAAの目立つケース (CAA-rich case),CAAの乏しいケース (CAA-minimal case) における各々のpeak 1 Aβを解析した.その結果,① peak 1 AβはCAA-minimal caseよりもCAA-rich caseに,また脳実質組織よりも血管・髄膜組織に高濃度に存在することを示し,peak 1 Aβが血管・髄膜特にCAAに豊富に存在すること,② 免疫沈降-質量分析からpeak 1 Aβと相互作用する分子としてapoEを同定し,APOE ε4/4ではε3/3に比しpeak 1 Aβが豊富に存在することを見出した.その上で,③ peak 1 Aβはケース毎に「脳実質Aβ蓄積優位に誘発するseed」「CAA優位に誘発するseed」「いずれも誘発するseed」と,固有の性質 (指向性) を有することを示し,さらに同一個体内であれば髄膜・血管から得たpeak 1 Aβも,脳実質から得たpeak 1 Aβも同じ性質を有すること,そしてCAA minimal caseから得たpeak 1 Aβは脳実質Aβ蓄積優位型となることなどから,各々のseedが帯びた指向性がAD脳病理の個体差に寄与し得る可能性を見出した.今後,より多数例での検証とともに,プロテオミクス解析により指向性の背景にある分子基盤を明らかにする.
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