令和4年度は、新たな星を生む活動を止めた銀河は、銀河団の特定の場所に偏って分布しているという事実が現在から赤方偏移1(約80億年前)の宇宙にまで渡って観測されることを報告した。先行研究との比較によれば、これは銀河団中心部の巨大銀河が持つ大質量ブラックホールの活動性に起因している可能性があり、銀河団における中心巨大銀河の役割を理解する上でも興味深い。こうした背景から令和5年度は、同様の現象がより過去の宇宙であっても起きるのかを調べるため、使用する銀河団のサンプルを赤方偏移1.5(約100億年前の宇宙)まで含めて同様の解析を行なった。現在はまだ初期的な成果を得た段階ではあるものの、赤方偏移1以下の宇宙と同様の傾向が観測されている。今後は得られた結果を精査し、学術論文としてまとめる予定である。また、より大規模なサンプルで同様の研究を行うため、赤方偏移1.5以上にある成熟した銀河団の大規模探査を行う。
本研究課題全体として、(1)成長途上の銀河団(原始銀河団)の中で星形成を終えた銀河が出現する平均的な時期に制限をつけ、また(2)成熟した銀河団の中で星形成の停止がどのように進行するのかに知見を与えることができた。本研究で開発・使用したデータ解析手法は、可視光から近赤外線までを含むデータに対して広く利用できる。現在、これまでにない広い天域で、深い天体画像を取得する計画が世界中で進行しており、例えば、Euclid宇宙望遠鏡、Roman宇宙望遠鏡、Rubin天文台などによる10年単位のサーベイ計画が存在する。これらのサーベイから得られたデータを用いれば、本研究をより遠方、したがってより初期の宇宙に拡張可能であり、将来的に初期宇宙から現在までの銀河団銀河の進化をひとつなぎに理解する手がかりが得られると期待する。
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