研究課題/領域番号 |
22J12144
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 東京大学 |
特別研究員 |
図司 陽平 東京大学, 理学系研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2022-04-22 – 2024-03-31
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キーワード | トポロジカル欠陥 / 液晶 / ダイナミクス / 共焦点観測 |
研究実績の概要 |
液晶トポロジカル欠陥について、電圧印加によって生じた乱流状態からの緩和過程における3次元ダイナミクスを観測した。トポロジカル欠陥に特有のダイナミクスである再結合のうち、2本の欠陥が平行に近づいてくるタイプの再結合に着目して観測・解析を行い、2次元の典型ダイナミクスと比較して議論した。トポロジカル欠陥同士の、距離の時間発展法則は次元によらなかったが、運動の仕方は2次元で非対称なのに対して3次元では対称であることが明らかになった。我々は、この対称性の次元による違いが、トポロジーとエネルギーを組み合わせた観点から理解できることも示した。欠陥周りの配向場について、乱流を起こすよりは低い電圧によって生じる縞状の対流パターンを利用して観測することで、上記の議論をサポートすることができた。これらの内容は海外論文誌に掲載された。 さらに、再結合のうち、2本の欠陥が同一平面になく、交差しながら近づいてくるタイプについても観測・解析を行った。このタイプでは、2本の線欠陥が、顕微鏡の分解能の低いz方向(奥行方向)に近づいてくるため、解析精度の向上を目指して欠陥位置抽出手法の改善を試みた。動的輪郭法の一つであるsnakesと呼ばれる方法を用いて、顕微鏡で得られた3次元輝度情報から直接滑らかな曲線を得る方法を実装した。解析を行った結果、2本の欠陥は、平行に近づく場合と同様のスケーリングに従って近づくことに加え、2本の欠陥の角度を小さくしながら再結合に向かうことが分かった。得られた結果を、ごく最近公開された理論と比較・検証している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
トポロジカル欠陥ダイナミクスの素過程である再結合について、欠陥位置に基づいた研究を行い、平行な2本の欠陥の再結合については、論文出版に至ることができた。ただ、欠陥位置以外の観測方法については、配向場は間接的な観測は行ったものの、直接的な手法の実現には至っていない。また、流動場についても、取り組みはこれからである。ただし、欠陥位置の時間発展、特に2本の欠陥間の距離と角度の時間発展については、当初想定していない理論の進展があり、理論との比較を行う実験及び解析に重点を置いたことは、理論研究者との議論や共同研究につながる等分野への貢献は大きいと期待される。
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今後の研究の推進方策 |
トポロジカル欠陥の集団運動としての、液晶乱流の理解を目指す。これまでに、トポロジカル欠陥の、ほぼ同一面内で起こるタイプの再結合に関してその欠陥間距離のスケーリングと運動の対称性を中心に得た理解を論文として出版した。また、交差するタイプの再結合についても、測定・解析手法を改良し近年の理論研究と比較しつつ理解を進めている。これらのパッシブな欠陥運動の理解に基づいて、基本的な技術を習得し自身の実験系での実現を確認できた液晶のパターン配向技術を用いて、電圧で駆動された“アクティブ”な欠陥運動素過程の理解と、素過程を踏まえた液晶乱流の理解を目指す。 まず、パターン配向で実現した任意の初期条件のトポロジカル欠陥に電圧を印加し、生じる液晶の電気対流による欠陥の変形、運動、相互作用を観測する。まず表面に固定した配向場(巻き数など)が欠陥の運動等に与える影響を調べる。また、電圧を変えて計測し、駆動力に対する欠陥の変形・運動の依存性を測定する。さらに、欠陥周囲の流れ場についても観測を行う。採用しうる手法として2つの方法が考えられる。1つは、共焦点顕微鏡の観測視野中の小領域にズーム機能を用いて強い励起光を照射することで蛍光色素を退色させ、再びズーム倍率を落とし、退色した小領域の拡散・移動を観測する手法である。もう一つは、微小な蛍光ビーズを混ぜた液晶試料で観測を行い、ビーズの運動から流れ場を検出する方法である。配向場については、従来手法をそのまま本実験系に適用するのが難しいことが判明したため、屈折率異方性の測定など新手法の導入も検討しつつ測定手法を模索する。乱流観測については、その中の欠陥運動に着目し、上記アクティブな欠陥運動の素過程から理解できるかに着目して行う。
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