研究課題/領域番号 |
22J12288
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
永野 裕大 東京大学, 農学生命科学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2022-04-22 – 2024-03-31
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キーワード | 送粉サービス / 畦畔管理 / 栄養相互作用 / 非栄養相互作用 / 送粉ネットワーク / DNAメタバーコーディング / ソバ / 持続可能な農業 |
研究実績の概要 |
本研究は、ソバの送粉サービスを対象に生物多様性保全と作物生産を持続的に両立可能な人為管理の構築を目的としている。そのために、以下の2つの視点から調査を実施した。 ① 畦畔管理が送粉サービスに与える効果とそのメカニズム 自身のこれまでの研究から、ソバ栽培時期に畦畔草地での草刈を控えて花資源や植生高を維持することで、通常の管理(開花直前に草刈)よりも送粉サービスが増加することが明らかになってきた。今年度は、この効果が一貫して表れるかを確かめるとともに、そのメカニズムに迫る調査を実施した。草刈管理の効果については、これまでの結果と同様に花資源・植生高の維持によって送粉サービスが増加した。メカニズムとしては、植物ー送粉者ネットワークにおける栄養(採餌)・非栄養(休息)相互作用に着目し、それぞれ日中と夜間に調査した。そこから野生植物からソバへの間接効果の指標を算出した。その結果、栄養/非栄養効果の比率は、季節や植物種、訪花昆虫ごとに異なり、ソバの訪花昆虫個体数と結実率ともに栄養/非栄養効果の比率が中程度のところで最大になった。つまり、栄養・非栄養の両プロセスが相補的に送粉サービスを高めていることが示唆された。 ② 訪花昆虫による花資源の利用実態 訪花昆虫による花資源の利用実態として、昆虫と植物の関係である送粉ネットワークに着目した。しかし野外での直接観察によって構築された送粉ネットワークは不完全であることが指摘されている。これの克服には昆虫の体表に付着した花粉を分析する方法が有効であり、本研究では体表花粉のDNAメタバーコーディング技術によって明らかにすることとした。ソバの開花前と開花中に畦畔草地の野生植物に訪花していた昆虫を採集し、分析に用いた。今年度はDNA抽出やPCRサイクルなどのプロトコルを確定する状況まで進展している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、ソバの送粉サービスを対象に生物多様性保全と作物生産を持続的に両立可能な人為管理の構築を目的としており、そのためには訪花昆虫の行動応答と個体群応答を分けて考える必要がある。 まず、行動応答を利用する人為管理については、順調に進んでいる。畦畔管理によってソバの送粉サービスが高まる結果は、特別研究員(DC2)内定前の傾向と同様であった。またそのメカニズムとして植物ー送粉者ネットワークにおける栄養(採餌)・非栄養(休息)相互作用に着目した。このネットワークを解明したことで、栄養・非栄養の両プロセスが相補的に送粉サービスを高めていることが示唆された。また、畦畔管理の効果発現に対して、効果的な植物種が絞れ始めている。 次に、個体群応答を利用する人為管理については、若干遅れている。訪花昆虫によく利用されている植物を昆虫体表に付着した花粉のDNAメタバーコーディングによって明らかにすることを第一目的としている。だが、プロトコルの決定に時間がかかったため、実際に分析を実施する段階には至らなかった。
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今後の研究の推進方策 |
畦畔管理が送粉サービスに与える影響に関するパターンとメカニズムは明らかになりつつある。特にパターン(管理とサービスの関係)は過去4年間一貫した傾向であり、今後は補助的に実施する予定である。メカニズム(栄養・非栄養相互作用)については、両者の相補的な効果という予想以上の結果が得られた。ただこれは単年の傾向であるため、より確証を得るために、今後も同様の調査を実施する予定である。 昆虫体表に付着した花粉のDNAメタバーコーディングについては、プロトコルが確定した。来年は実験補助者をつけて400個体ほど実施する予定である。
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