研究課題/領域番号 |
22J12454
|
配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
井上 香鈴 東京大学, 理学系研究科, 特別研究員(DC2)
|
研究期間 (年度) |
2022-04-22 – 2024-03-31
|
キーワード | 陸上進出 / 腹足類 / 海洋島 / 初期発生様式 |
研究実績の概要 |
動物の陸上進出は,地球環境全体に大きな影響を及ぼしてきた。陸上進出には,さまざまな生理・生態的な適応進化を伴うが,各適応形質がいつ・いかなる環境で獲得されたか,詳細な陸上進出過程は明らかになっていない。本研究では,腹足類(巻貝)を用い,動物の陸上進出に関する最も高精度な理解を目指す.半陸生から完全陸生に至る過程を詳細に観察できるオカミミガイ科ヒラシイノミ属腹足類を対象に,分子系統解析,分岐年代推定,各種の生息環境や初期発生様式の把握,腎管などの排出器系の形態観察を行い,発生・生理を含めた各適応形質が時空間上でどのように獲得されたかを考察することで,動物の陸上進出過程を詳細に明らかにする。 本年度は,オカミミガイ上科とヒラシイノミ属について分子系統解析を行った.本上科の系統解析から,高い支持率をもってヒラシイノミ属の系統的位置が明らかになり,本属の系統解析に用いる外群の選定において重要な知見が得られた.ヒラシイノミ属の系統解析の結果からは,本属内で少なくとも2回,直達発生と完全陸生の獲得が生じたことがわかった.加えて,ヒメヒラシイノミ種内集団の遺伝的解析を行った.大東諸島の内陸/海岸個体群を中心に,ミトコンドリアDNAのCOI領域と核DNAのITS領域を用いて解析を行った結果,大東諸島内において予想以上に狭い地理的スケールで遺伝的分化が生じている可能性が示唆された.さらに,ヒラシイノミ属の邦産種の解剖による排出器の形態観察,ヒメヒラシイノミの生息環境の定量的評価(標高・海からの距離・土壌塩濃度の測定)を行った.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
新型コロナウイルス感染症に関する活動制限やスケジュールの乱れにより,一部離島における野外調査が実施できなかったが,所属研究室所蔵の標本や博物館・外部研究者から借用した標本を中心に解析を進められた。ヒメヒラ種内集団の遺伝的解析については,COIとITSの部分塩基配列に基づく解析から,予想以上に狭い地理的スケールで遺伝的分化がみられたため,当初予定していたMig-seq解析を行う前に,数キロメートル単位で離れた集団間でCOI・ITS領域の配列比較を行うことにした.本年度予定していた分岐年代推定用の化石の収集はできていないが,ヒラシイノミ属やその近縁種の化石産出記録が複数存在するため,それら記録を基に年代推定を行うことが可能と考えている.また,排出器系の形態観察については,対象としている種の腎臓のサイズが大きく,解剖による形態観察でも多くの情報が得られることが明らかになったので,当初予定していた排出器の組織切片3Dモデル再構築ではなく,解剖による形態観察を中心に行うことにした.
|
今後の研究の推進方策 |
内陸部と海岸部の両方に生息するヒメヒラシイノミ(ヒメヒラ)について,前年度に行ったCOI・ITSの部分塩基配列に基づく系統解析の結果をもとに,系統的偏りがないように個体を選出し,次世代シーケンサーを用いたMig-seq解析を行う.そして,化石の産出記録を基に分子系統樹のキャリブレーションを行う.得られた時間軸を含む系統樹と,既知の大東諸島の地誌(島の誕生時期や海水面変動)の情報とあわせ,本属における陸上進出がいつ起きたのかを明らかにする.本年度は,南大東島・北大東島・沖縄本島おけるヒメヒラの海岸/内陸生息地の生息環境(標高・海からの距離・土壌塩濃度)の把握を行う.とくに,大東諸島では,前年度行なったCOI・ITSの部分塩基配列に基づく系統解析の結果から,数キロメートルしか離れていない地点間でも,遺伝的分化がみられたので,島内のヒメヒラ生息地を密に探索し,生息環境の定量的評価を行う.また,排出器系の形態観察については,前年度身につけた解剖の技術・知識をもとに,腎臓形態の種間比較を行う.得られた生息環境・発生様式・排出器などの各形質状態を時間軸を含めた系統樹上にマッピングし,ヒラシイノミ属における陸上進出史を明らかにする。得られた成果は,学会大会で発表すると共に,論文として国際誌に投稿する。
|