研究課題/領域番号 |
22J12471
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
川原 光滋 東京大学, 理学系研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2022-04-22 – 2024-03-31
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キーワード | マルチフェロイクス / ドメインダイナミクス / 自由エネルギー |
研究実績の概要 |
本研究は、複数の秩序が存在する系における、秩序間の相関による非自明な秩序化ダイナミクスの統一的理解を理論的に得ることを目的とした。そのために、マルチフェロイクス系の物質中に存在するドメイン壁の空間構造やその分裂に伴う欠陥構造の静的および動的な性質を理論計算および数値計算により解明することを目指し、現在までにその静的空間構造の解明に至った。この成果は動的性質解明のための下地になるとともに、マルチフェロイクス系において秩序間の相関に由来する非自明な空間構造が存在することを示したものである。 本研究の重要な応用先として、マルチフェロイクス系のドメイン壁を用いた低エネルギー消費なメモリデバイス開発が挙げられるが、ドメイン壁の移動はメモリの読み書き過程に対応する基本的物性であり、その構造や分裂ダイナミクスはデバイスの性能に関わる重要な物性である。 具体的には、典型的マルチフェロイクス物質GdFeO3の自由エネルギーモデルを構成し、空間2次元におけるドメイン壁の分裂構造を再急降下法による自由エネルギー最適化によって明らかにした。さらに秩序間の相関の強さによる欠陥構造の変化を系統的に議論した。 その結果、トポロジカルな観点からは消滅すると考えられるドメイン壁の分裂構造が、エネルギーの準安定構造として物質中に存在しうること、またその際のドメイン壁同士の接触角が非等方的であり、古典的な力のつり合いの方程式で書けることを示した。特に、接触角の非等方性は複数種のドメイン壁が存在するという、マルチフェロイクス系の特殊性を反映したものである。 これらの成果は投稿論文として取りまとめる予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
課題の進捗状況がやや遅れている、とした理由を当初計画に照らして述べる。当初計画では2022年度までに以下の4種の内容の実施を計画していた。内容1 : ドメイン壁分裂の端点に現れる点欠陥構造の解明内容、内容2 : ドメイン壁間相互作用の解明、内容3 : ドメイン壁分裂の効果を含む界面位置の運動方程式導出、内容4 : 可積分模型を用いた界面成長の解析、である。 これらの達成度について述べる。内容1は実施完了し、論文化できるだけの成果が得られている。 またこの発展として、ドメイン壁と不純物の相互作用/ピン留めのシミュレーション研究を準備中である。内容2,3は未実施である。当初計画でドメイン壁間の相互作用の定式化を計画していたが、内容1及び4に当初想定以上に時間がかかったことが原因である。内容4は実施検討したが、定式化と解析にさらなる検討を要する状況である。具体的には、複合ドメイン壁内部には複数の秩序のドメイン壁位置が存在し、それらの相対位置が相互作用の記述に必要となる。一方、利用を検討していた可積分系の手法(KPZ方程式、AHR模型)では、ドメイン壁の(localな)傾きを粒子にマップする。そのため複数ドメイン壁間の相対位置は粒子系での遠距離相互作用に相当し特別の扱いを要求するため、今回のモデルは単純なAHR模型へのマップにならず、さらなる工夫が必要であるとわかった。 以上の成果と検討結果を総合し、やや遅れている、と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
上記「内容1」の成果で明らかになったマルチフェロイクス系のドメイン壁の静的空間構造をもとに、その動的性質を解明する。具体的には不純物との相互作用およびピン止めのダイナミクスと、外場駆動時におけるドメイン壁位置の空間揺らぎの発展を理論的、数値的に解明する。 また「内容2」のドメイン壁相互作用の定式化についても、まずは1次元で自由エネルギーの増分として定式化し、実用上興味のある2次元での議論へ展開する予定である。
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