前年度に引き続き、典型的なマルチフェロイクス物質GdFeO3におけるドメイン壁構造、およびそこに現れる複数秩序間の相関の効果を明らかにすることを目的として研究を行った。 前年度に空間1次元でのドメイン壁ダイナミクスについての研究が一段落したため、今年度は空間2次元におけるドメイン壁の空間構造を研究した。空間2次元系においてはドメイン壁は曲率を持ち、また他のドメイン壁と交差するなど多様な構造を示すことから、マルチフェロイクス特有の空間構造やそれに伴う新奇なダイナミクスを発見することを狙った。 具体的には、空間2次元なGdFeO3では、異なる種類のドメイン壁が巨視的に見て一点で接続する、ドメイン壁同士の接触点という構造があることに着目し、この接触点に接続するドメイン壁同士の(巨視的に見た際の)接触角や、接触点を微視的に見た際の内部構造(すなわち分岐点周辺での秩序変数の空間分布)を理論的に研究した。研究手法は系の秩序変数(磁性スピン2種と電気分極)を用いた自由エネルギー模型による数値シミュレーションであり、東京大学物性研究所のスーパーコンピューターを用いて計算した。 その結果、1. ドメイン壁の接触角は古典的なヤング則に従うこと、2. 分岐点は系に含まれるスピン変数の回転を反映し複合的なトポロジカルチャージを持つこと、3. その内部構造は秩序間の相互作用により特定のドメイン壁方向に歪んだ形状をしていることなどを明らかにした。以上の成果は2023年秋の日本物理学会で発表した。
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