研究課題/領域番号 |
22J12566
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
久我 友大 東京大学, 農学生命科学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2022-04-22 – 2024-03-31
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キーワード | セルロース / 加リン酸分解酵素 / 構造 |
研究実績の概要 |
普遍的に存在する糖質からカーボンニュートラルな材料を合成する目的で、加リン酸分解酵素を用いた糖質の変換を行った。スクロース加リン酸分解酵素とセロデキストリン加リン酸分解酵素とを用いたスクロースからセルロースを合成する反応では、結晶化度が非常に高いII型セルロースが合成された。周波数変調原子間力顕微鏡を用いて、合成されたII型セルロースの液中ナノレベル観察を行ったところ、セルロース結晶の表面において分子が整列した様子が確かめられた。クライオ電子顕微鏡単粒子解析によるセロデキストリン加リン酸分解酵素の構造解析から、セルロース分子のII型セルロース結晶への自己組織化は、セロデキストリン加リン酸分解酵素の2量体構造中でセルロース2分子が近接した逆平行の配置をとることに起因すると考えられた。セロデキストリン加リン酸分解酵素を用いて合成されたセルロース分子がII型板状結晶に自己組織化する様子を、高速原子間力顕微鏡を用いて観察したところ、II型セルロース板状結晶は二次元的に成長する様子が観察された。結晶中における欠陥の生成は確認されず、セルロース分子が極めて精密に溶液中でパッキングし、II型セルロース結晶へ自己組織化することが確かめられた。本研究成果は、セロデキストリン加リン酸分解酵素が化学反応の触媒としての機能だけでなく、化学反応による生産物の超分子的な形態・構造を決定づけるという、ユニークな機能を有することを示しており、酵素学的観点で非常に意義があると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
普遍的に存在する糖質から材料利用が可能な糖質へ変換するために、嫌気性バクテリアの菌体内酵素である、セロデキストリン加リン酸分解酵素(CDP)に着目し研究を行った。この酵素は酸化に対して非常に不安定であり、発現・精製から数ヶ月で失活するため、産業利用には触媒コストがかかることが課題であった。そこで、酸化に関わる残基11個に対して変異を導入したCDP変異体を作成した。この変異体の活性はCDPの初期の活性と同等であり、数ヶ月で活性の低下は見られなかった。この変異体の単結晶を作成し、高エネルギー加速器研究所BL5AにてX線回折を取得し、結晶構造解析に供したところ、変異導入前後で揺らぎが大きく変化する残基を発見した。この残基が、酸化のダメージを受けやすい残基であると考えている。本結果は、現在論文として結果を公表するための準備を行なっている。 また、CDPとスクロース加リン酸分解酵素を同時に用いることにより、1ポットでスクロース(砂糖)からセルロースへの糖質変換を行った。このセルロースはII型と呼ばれる結晶形をもち、結晶化度が極めて高いことが明らかとなった。周波数変調原子間力顕微鏡を用いてこのII型セルロース結晶表面の原子レベル液中観察を行ったところ、溶液と接する結晶表面においてもセルロース分子が整列している様子が確かめられた。クライオ電子顕微鏡単粒子解析を用いてCDPの構造・動態の解析を行ったところ、CDPを用いて合成されるII型セルロースの構造は、CDPの構造と動態に密接に関わっていることが明らかとなった。本結果は、研究成果は、CDPが化学反応の触媒としての機能だけでなく、化学反応による生産物の超分子的な形態・構造を決定づけるという、ユニークな機能を有することを示しており、酵素学的観点から非常に意義があるものと考え、英文学術誌に投稿中である。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究により安定性を高めたセロデキストリン加リン酸分解酵素を得たことから、パイロットスケールでセルロースの大量合成を行い、合成したセルロースの材料としての応用についての検討を行う。植物由来セルロースから有用糖質への変換を行うため、新規加リン酸分解酵素の探索を行う。
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