普遍的に存在する糖質からカーボンニュートラルな材料を合成する目的で、加リン酸分解酵素を用いた糖質の変換系を検討した。セロデキストリン加リン酸分解酵素を用いたセルロースの変換系では、セロデキストリン加リン酸分解酵素の酸化に対する不安定さが問題となり、反応系をラボスケールから工業スケールに拡大する際にコスト要因となることが考えられた。そのため、セロデキストリン加リン酸分解酵素の酸化に対する不安定さの原因となっていると考えられる、非ジスルフィド結合性システイン残基(フリーシステイン)を化学構造が類似したセリン残基に置換する変異を導入した。セロデキストリン加リン酸分解酵素は、フリーシステインを11個有しており、システインをセリンに置換する11個の変異をセロデキストリン加リン酸分解酵素へ導入したところ、野生型酵素が4℃で保管時に6週間で80%活性を失っていたが、変異酵素では6週間で活性低下は見られなかった。一方で、変異酵素の熱安定性は野生型に比べ低下したことから、フォールディングや熱安定性に寄与するシステイン残基が存在すると推測され、酸化されやすく熱安定性に影響しないシステイン残基のみを変異導入の対象とする必要性があると考えられた。X線結晶構造解析を行ったところ、野生型酵素と変異酵素に違いは見られなかったものの、変異導入箇所における揺らぎに違いが見られた。こうした揺らぎの違いを比較することでフォールディング・熱安定性または酸化に対する安定性に重要なアミノ酸残基を検出できる可能性があり、酵素を利用した物質変換時の触媒コスト削減に役立つ可能性がある。
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