研究課題/領域番号 |
22J12643
|
配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
加藤 柊也 東京大学, 農学生命科学研究科, 特別研究員(DC2)
|
研究期間 (年度) |
2022-04-22 – 2024-03-31
|
キーワード | 交雑帯 / 集団ゲノミクス / 異所的分化 / アゴハゼ / 遺伝子浸透 / 絶滅系統 / introgression landscape / 二次的接触帯 |
研究実績の概要 |
海洋は物流的障壁に乏しいにもかかわらず、過去の隔離により異所的な分化を遂げた海洋生物が現在でも多く維持されている。本研究では、こうした異所的分化を維持するゲノム基盤を探索するために、分化した系統間の交雑が複数回生じたアゴハゼを対象とした集団ゲノミクス解析を行っている。 本年度は、瀬戸内海沿岸に形成されたアゴハゼ日本海系統と太平洋系統の交雑帯について網羅的なサンプリングを行い、当該サンプル200個体以上のlow coverage全ゲノムリシーケンスを行った。その結果、山口県宇部市周辺から防府市にかけて急峻な交雑クラインが形成されていること、各集団はわずか10km単位の距離で互いに遺伝的に分化していることが判明した。現在、この交雑帯サンプルについてクライン解析を行うことで、系統間の融合が妨げられている領域を全ゲノムレベルで探索している。 また、アゴハゼ第3の種内系統である東シナ海系統についてもゲノム解析を進めた。デモグラフィックモデリング解析の結果、太平洋系統から古くに分岐した絶滅系統が日本海系統と十万年以上前に交雑したことで東シナ海系統が形成されたというシナリオが支持された。この東シナ海系統において絶滅系統が受け継がれた領域と受け継がれなかった領域(introgression landscape)の特徴を観察したところ、絶滅系統が受け継がれなかったゲノム領域は機能的に重要な領域や低組み換え領域に富んでいるなどの特徴が判明した。これらの結果は、絶滅系統の遺伝子浸透を防いだ選択圧が存在したことを示唆している。 さらに、本年度にはアゴハゼの飼育下での人工繁殖に成功し、初めての系統間交配にも成功した。したがって、交雑帯・古代の交雑に起因する東シナ海系統・人工交配といった様々なスケールでの交雑研究をアゴハゼについて展開する基盤を本年度に整えることができたと考えている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の主な研究対象である瀬戸内海沿岸の交雑帯について、low covergae全ゲノムリシーケンスの大規模取得が完了し、解析の準備が整えることができた。さらに、古代の交雑に起因する東シナ海系統や飼育下での人工系統間交配についても研究が進展し、様々なスケールでの交雑研究をアゴハゼについて展開する基盤を本年度に整えることができた。
|
今後の研究の推進方策 |
既に収集済みの東北地方太平洋沿岸の交雑帯サンプルについてもlow coverage全ゲノムリシーケンスの大規模な取得を進める。瀬戸内海沿岸と東北地方太平洋沿岸という異なる二つの交雑帯についてクライン解析を行うことで、系統間の融合が共通して妨げられている領域を全ゲノムレベルで探索する。さらに、この領域を、系統間の構造変異や、東シナ海系統における絶滅系統由来領域などと比較することで、その意義に迫る。 また、東シナ海系統についてのゲノム解析の結果については論文化を進める。
|