アゴハゼ日本海系統と太平洋系統の間に形成された宇部交雑帯(瀬戸内海沿岸)と田老交雑帯(東北地方太平洋側沿岸)という2つの独立した交雑帯に着目した解析を行った。
本研究では、地理的に大きく異なる両交雑帯から網羅的にサンプルを収集し、22地点416個体のアゴハゼについてlow-coverage全ゲノムシーケンスを取得した。また、このデータについて染色体構造を踏まえた議論を行うために、PacBio Hifiシーケンスおよび系統間人工交配家系を用いた連鎖解析により、染色体スケールのアゴハゼ参照配列を新たに構築した。これらを用いて両交雑帯の全ゲノムクライン解析を行った結果、①異所的分化が維持される領域、すなわち系統間の融合が妨げられているゲノム領域は、両交雑帯において偶然よりも多く共通していること、②これらの領域は染色体の短腕側ないしセントロメア近傍領域に集中していることが判明した。 さらに、絶滅系統との古代の交雑に起源を持つアゴハゼ東シナ海系統の交雑ゲノム構成についても解析を進め、交雑帯におけるクライン解析の結果と比較することで、時代を超えた共通性にも迫った。その結果、現在の交雑帯において系統間の融合が生じにくいゲノム領域は、東シナ海系統においても系譜が安定的なゲノム領域に富むことが判明した。
これらの結果は、アゴハゼの交雑ゲノム構成に「分化した系統間のまざりにくさ」を中心とした共通則が時空を超えて存在することを強調するともに、ゲノム構造がゲノム構成に制約を与えうることを示している。
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