研究課題/領域番号 |
22J12651
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
山口 空 東京大学, 農学生命科学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2022-04-22 – 2024-03-31
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キーワード | セルロース / タンパク質 / ホヤ |
研究実績の概要 |
セルロースは、グルコース(ブドウ糖)が鎖状に繋がった地球上で最も豊富なバイオマスであり、陸地では主に木などの丈夫な細胞壁を形づくっている。一方、海洋ではホヤが動物で唯一セルロースを合成し、身を包む被のうなど多様な形態の構造物を作っている。これらの生物は細胞膜にセルロース合成酵素(Ces)をもち、Cesの細胞内側で合成される非晶性のセルロース分子鎖が細胞外で互いに引き合い、結晶性の束になる。中でもホヤのCesには微生物が分泌するセルロース分解酵素の一種(GH6)と似たアミノ酸配列のドメイン(CesGH6)が細胞外で繋がり、加えてCesとは別にGH6とアミノ酸配列が似たタンパク質(GH6-1)を単独でもつと言われるが、それらの機能は明らかになっていない。そこで本研究は、CesGH6とGH6-1の構造とセルロースへの作用を調べ、ホヤのセルロース合成における機能の解明に近づくことを目的として行った。 ホヤのモデル種でありゲノムが解読されているカタユウレイボヤ(Ciona intestinalis type A)を対象に、採用前に合成して酵母で発現させられなかったCesGH6の遺伝子について、細胞外分泌シグナルの切断位置を変更したDNA配列を作製し直した。そして、GH6-1の遺伝子も合成して酵母で異宿主発現できるかを試したが生産されなかったため、同様に細胞外分泌シグナルの切断位置を変更したDNA配列を作製し直した。 また、次年度に計画していたCesGH6やGH6-1の結晶構造解析実験に向けて、予備実験として構造が類似したタンパク質であるGH6を用いて結晶のサイズや質が改善する場合があると言われている添加剤のスクリーニングを行い、相性の良い化合物を調べた。また、マイクロ透析法によって拡散速度を制御しながら結晶を成長させられる条件を検討した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
現在までに、ホヤのモデル種でありゲノムが解読されているカタユウレイボヤ(Ciona intestinalis type A)を対象に、GH6-1の遺伝子を合成し酵母で異宿主発現を試みたが、生産は確認されなかった。また、CesGH6は採用前に合成した遺伝子を酵母で発現できていなかったため、細胞外分泌シグナルの切断位置を変更したDNA配列を作製し直すことにした。始めに、挿入部位入りのプライマーを用いてインバースPCRによって挿入変異の導入を試みたものの、目的の配列が増幅しなかったため、制限酵素を用いた方法に変更し、設計した配列のプラスミドDNAを作製できていることを確認した。そこで、GH6-1も同様に、制限酵素を用いて分泌シグナルの切断位置を変更したDNA配列を作り直した。 また、結晶構造解析に向けた予備実験については、主要な結晶化手法はCesGH6やGH6-1と構造が類似したタンパク質であるGH6において一通り扱い、目的タンパク質の生産と精製に至れば様々な方式で条件検討を行える状態になった。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、現在までに再構成したCesGH6とGH6-1の遺伝子を酵母で発現させられるかを試し、困難な場合は、可溶性を高めるマルトース結合タンパク質を目的タンパク質と融合した配列の遺伝子を構築し、大腸菌での発現を試みる。もしタンパク質を得られた場合は、生産したタンパク質は非晶性/結晶性のセルロースとインキュベートし、分解産物である還元糖量の測定によって分解活性を調べる。活性がある場合は、溶解性のセルロースが分解されることによる溶液の粘度低下を調べ、セルロースの分解様式がランダムな分解か決まった単位での分解かを推定する。活性がない場合は、熱変化の測定により各種セルロースとの結合力を調べ、セルロースへの作用を考察する。また、これらのタンパク質について、これまでGH6で検討してきた条件を参考に結晶化と構造解析を行う。
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