セルロースは、グルコース(ブドウ糖)が鎖状に繋がった地球上で最も豊富なバイオマスであり、陸地では主に木などの丈夫な細胞壁を形づくっている。一方、海洋ではホヤが動物で唯一セルロースを合成し、身を包む被のうなど多様な形態の構造物を作っている。これらの生物は細胞膜にセルロース合成酵素(Ces)をもち、Cesの細胞内側で合成される非晶性のセルロース分子鎖が細胞外で互いに引き合い、結晶性の束になる。中でもホヤのCesには微生物が分泌するセルロース分解酵素の一種(GH6)と似たアミノ酸配列のドメイン(CesGH6)が細胞外で繋がり、加えてCesとは別にGH6とアミノ酸配列が似たタンパク質(GH6-1)を単独でもつと言われるが、それらの機能は明らかになっていない。そこで本研究は、ホヤのセルロース合成におけるCesGH6とGH6-1の機能解明に近づくことを目的として行った。 ホヤのモデル種でありゲノムが解読されているカタユウレイボヤ(Ciona intestinalis type A)を対象に、昨年度は酵母を宿主としてGH6-1およびCesGH6の生産を試みたものの発現しなかったため、制限酵素を用いて細胞外分泌シグナルの切断位置を変更したDNA配列を作製し直した。さらに、白色腐朽菌の一種(Phanerochaete chrysosporium)由来が分泌するセルロース分解酵素(PcCel6A)において、触媒に重要と考えられるアミノ酸を置換した変異体のセルロース分解活性と酵素立体構造を比べ、反応メカニズムの解明に取り組むことで、CesGH6やGH6-1の機能に影響する可能性が高いアミノ酸の役割についての知見を得た。
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