研究課題/領域番号 |
22J12773
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 東京大学 |
特別研究員 |
井澤 佳織 東京大学, 工学系研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2022-04-22 – 2024-03-31
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キーワード | 歴史的建築物 / 保存再生 / 意思決定 / 数理最適化 |
研究実績の概要 |
本研究は,保存活動と経済活動の競合関係に着目し,活動主体の最適な意思決定に関する数理的分析を通して,活用を前提とした合理的な保存戦略,つまり数理的特徴に基づく知見を得ることを目的とする.そのために,「A:保存活動により生じる経済性に基づく所有者単一の意 思決定」,「B:保存活動により生じる経済性に基づく複数主体の意思決定」,「C:合理的な保存戦略の提示」の3つの着眼点を設定しているが,本年度ではAならびにBに取り組んだ. Aにおいては,歴史的建築物の収益施設化による保存を実施した場合における,保存工事費用と運用収益に関する最適化問題を解くことで,想定される運用収益に見合った改修工事程度を示す改修割合の最適値を明らかにした.これにより,ある状況下では新築よりも改修が採算性の高い選択肢となるという商慣習とは異なる事実を明らかにした. Bにおいては,解体を望む所有者と保存を望む外部意見者が対立する建築保存の協議の場において,所有者の意思決定と外部意見が対立する状況がどのように収束するのかをゲーム理論の発展系であるコンフリクト解析を用いて分析した.人々は意思決定において自身の利得だけでなく自他の利得バランスに対する好み(社会的選好)を持ち,各主体の協議に臨む姿勢や行動規範を考慮した現実により即したチュエーションを設定したことで,協議の場における物別れの収束先や交渉の余地,各主体の業種と行動規範の関係を明らかにした.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は,複数主体を前提とした歴史的建造物の保存戦略について体系的な知見を獲得すべく,数理的分析手法を用いて「A:保存活動により生じる経済性に基づく所有者単一の意思決定」,「B:保存活動により生じる経済性に基づく複数主体の意思決定」の観点から研究を遂行した.これらの成果は,国際会議や国内会議だけでなく,査読付き論文としても発表しており,国内外問わず複数分野にて成果発信に努めた.以上の研究進捗状況は,順調に研究が進展されていることを裏付けるものである.
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今後の研究の推進方策 |
今年度の研究の進捗状況は当初の計画を達成する順調なものであったことから,研究2ヵ年目となる2023年度も研究計画に沿って,複数主体を前提とした歴史的建造物の保存戦略について体系的な知見を獲得するための数理的分析に取り組む.特に,これまでに明らかにしたことを踏まえて,持続可能な歴史的建築物の保存を実現するために必要な是正すべき現行制度や活動方法の課題について総括し,合理的な保存戦略の提示を目指す.また,得られた成果の学会報告や論文投稿についても積極的に行う.
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