福島第一原子力発電所事故により発生した燃料デブリを安全に取り出すためには、あらかじめその組成・位置等を含む燃料デブリ分布を推定する必要がある。本研究の目的は、実験および数値解析技術を融合させ、実機燃料デブリ分布を直接的に推定し、来たる燃料デブリ取り出しに貢献することである。前年度までは、フランス原子力・代替エネルギー庁(CEA)に滞在し、高温溶融物の流動・凝固に関する実験の画像解析及び数値解析手法の開発に取り組んだ。本年度は、高粘性流体の拡散・凝固を解析できる本手法を用いて、3号機を対象に実機体系解析を実施した。実機計算においては、不確実なパラメータが多く、境界条件の設定が極めて重要である。したがって、文献調査より、拡散等に影響を与えるパラメータ(水位、水温、蒸気温度等)を設定した。溶融物の初期粘性係数、蒸気熱伝達率、沸騰熱伝達率に関する感度解析を実施した。計算の結果、蒸気及び水から構成される冷却効率が低い場合、溶融物の粘性係数に依存せず、デブリが大きく拡散する可能性が示唆された。一方で、冷却効率と粘性係数が共に高い場合、デブリが拡散することなくペデスタル内に堆積する傾向が観察された。本結果を、実機の観察結果および経済協力開発機構・原子力機関(OECD・NEA)と比較した。その結果、3号機では主に酸化物系の燃料デブリが堆積した可能性が示唆され、今後のデブリ取り出しに資する推定を実施することができた。 なお、本成果は査読つき学術論文および査読付き国際学会にて出版・発表された。
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