本研究課題では,気相の情報を低エネルギーで繰り返し認識できるガスセンサを,金属ナノシートで創出することを目的とした.低エネルギー動作を実現するためには,高電流密度により発生するジュール熱をナノシート部だけに局在させるデバイス設計が不可欠である.そこで本年度では,金属ナノシートのジュール自己加熱を利用したガスセンシングについて,センサ測定とモデリングの両面からデバイス構造を最適化する指針について議論した.具体的には以下の3項目:(1)Auナノシートを用いた硫化水素センサの創出,(2)ジュール自己加熱を用いたAuナノシートの低エネルギー動作の実証,(3)金属ナノシートを用いたガスセンサデバイス設計論の構築を行った. まず(1)のAuナノシート硫化水素センサ創出について,呼気測定を実施した.その結果,Auナノシートは呼気に含まれる水素や湿度などの夾雑ガスの影響を受けることなく硫化水素の濃度を正確に測定できることを実証し,Auナノシートセンサを用いて硫化水素に関連する疾病を呼気からモニタリングできる可能性を示した.この成果は国際論文誌ACS Sensorsにて出版された. 次に(2)のジュール自己加熱動作について,Auナノシートデバイスの微細化を行い,チャネル幅400 nmのAuナノシートについて,ジュール自己加熱動作により最小1.7 mWでの硫化水素センシングが達成できることを実証した.この成果は国際会議SSDM 2023にて発表された. (3)のデバイス設計論の構築については,金属ナノシートデバイスの電気抵抗と熱抵抗の観点から消費エネルギーを求める解析モデルを構築した.本研究で構築した解析モデルを用いることで,最適なチャネル長および電極の熱伝導率の見当を容易につけることができ,すなわち金属ナノシートデバイスの設計指針を示した.本成果は国際論文誌JJAPにて現在査読中である.
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